晦日ノ月

□二律背反【一】
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 休日前、夏の夕刻。

 駅前の噴水の縁に腰かけて、彼はどこかぼんやりとした表情で、人を待っていた。
 長い髪をひとつにまとめて結い上げている彼を、その端整な容貌ともあいまって女性と勘違いした男や、女の子のふたり連れなどが声をかけてくるのに、彼は微笑みながらもどこかトゲのある言葉で拒絶をし、相手を追い払っていた。

 約束の時間より、少し前。

 呼ばれたような気がして、そちらを振り返る。
 目に入ったのは、まぶしいほどの白いジャケットを羽織った、背の高い彼の、こちらに向かって大げさなほどに振られている手と、いつもの笑顔。
「わりぃ、遅れちまったか?」
「いや、俺が早過ぎたみたいだね」
 急ぎ足でやってきた相手に笑顔で応えながら、彼のその鋭すぎる嗅覚と観察力が相手から、これで何度目なのかわからない、異質な気配を感じ取った。
 そしてそのことに不愉快さと、もどかしさと、それ以上の感情が沸き立ってくる。

 だがそれを、表に出すことはできない。

 本当の気持ちを取り繕う手管に長けてしまっている彼は、今も笑顔のまま、相手の話を聞いている。
「…ってことなんだよな…んで、今日は…」
「少し歩こうか、桑原くん」
 らしくなく、唐突にそう言った彼を、相手…桑原は不思議そうに見やった。
「歩こうって…おいおい、蔵馬」
 彼…蔵馬はにっこり笑って桑原を見上げた。
「勉強前の気分転換だよ。たまには、いいだろ?」
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