晦日ノ月
□二律背反【三】
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蔵馬の言葉に、桑原は目を見開き、がばっ、と起き上がった。
「な、なにを…言ってやがる…」
桑原の語尾が震える。いや、身体も、心も。そんな桑原の反応に、そして告げてしまった自分自身にも、蔵馬は愕然とした。
だが、彼の中の妖狐だけは、やはりな、と言って、南野である蔵馬を嘲笑する。
わかっていたくせに、と…
「…相変わらず、正直だね。少しは動揺を抑える術を覚えるべきだな」
妖狐に嘲笑された蔵馬が、今度は桑原を嗤う。だがその笑みは長くは続かなかった。怒りに染まった瞳で蔵馬は桑原を見据える。
「どうして、そんなことをしたんだ」
蔵馬の指が小刻みに震えている桑原の肩を鷲掴む。
「…なんで…お前が…知ってるんだ…」
桑原は無意識のうちにそう言っていた。その自分の台詞に、蔵馬に知られていたのだ、ということを改めて思い知る。
桑原の顔が火照り、動悸が激しくなる。混乱し、うわ言のように疑問を繰り返す。
「なんで…なんで…」
わからない。戸愚呂がしゃべるはずがないし、もちろん自分も。
誰かに見られていたのだろうか、それとも蔵馬がその場にいたとでもいうのか。
…吐き気がする。
意識しない涙が、桑原の目から零れ落ちる。
「桑原くん!」
答えない桑原に、苛立たしげに蔵馬は桑原の肩を揺さぶる。その蔵馬の剣幕に、桑原は戸愚呂の時と同じように逃げ場を見失った。
自分の身を差し出すか、それとも戸愚呂の命を奪うか。戸愚呂の提示した選択に、桑原は前者を選ぶほかなかったのだ。