晦日ノ月

□二律背反【六】
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「早く開けろよ。んで、茶の一杯でも飲ませろや」
 少し怒ったような顔で桑原がせっつく。言われるままに鍵を開けると
「邪魔するぜ」
 と桑原が先に入ってしまい、蔵馬はあわてた。
「桑原くん!」
「…なんだよ」
 こちらをにらむ、桑原の鋭い目。
「あ…その…」
 言葉がつまる。暗黒武術会の時と同じように気圧された。
「…麦茶で、いいかな…」
 なんともマヌケなセリフしか出てこなかった。
「ああ、ノド渇いたから、早くな」
「う、うん」
 あたふたとキッチンへと走り、買い置きしておいたペットボトルの麦茶を氷の入った透明なグラスに入れて、ぎこちなく、桑原に差し出す。
「サンキュな」
 本当に咽喉が渇いていたらしく、桑原は一気に麦茶を飲んだ。
 その麦茶が流れている咽喉元は、夏だというのにタートルネックの白いシャツで隠されている。
 それを確認して、蔵馬の顔が後悔で強張る。

 そして、しばらくの、沈黙。

 桑原にきつい目で見据えられ、蔵馬は思わず視線を外してしまった。
 声が聞きたい。
 沈黙に耐えかねて、蔵馬はそう思った。
 たとえそれが怒鳴り声でも、侮蔑の言葉でも、訣別の言葉でもいい。
「…何か…言ってよ…」
 情けなくも、蔵馬は懇願していた。
「何か言わなきゃならねーのは、てめーの方だろ」
 うなだれていた蔵馬が見上げると、そこにはシャツの襟元を広げ、妖狐のつけた傷を見せている桑原の姿があった。
「このキズの言い訳を聞かせてもらいにわざわざ来てやったんだ…ありがたく思えよ」
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