月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【三】
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3.

「コエンマーっ!!」
 あまりのことに頭に血が上った桑原は、答えない戸愚呂の代わりにコエンマの胸ぐらを両手で引っ掴んで揺さぶりながらまくしたてた。
「こいつは一体どういうことだ!てめーが噛んでるのは確実だろっ!なんであいつが生き返ってるんだよ!」
「落ち着け、桑原」
「これが落ち着けるかーっ!どうしてあいつが…!」
 言いかけて、ずきり、と古傷が痛むのに、思わずコエンマから手を離す。心臓の上、他ならぬ、戸愚呂にえぐられた、まだ傷痕の残る、あの時の傷…。
「…魂の方は霊界の影響下にある界にあってな。肉体の方はあの決勝戦以来、誰も足を踏み入れることのなかった島の闘技場跡からヤツの遺体の一部から再生をした」
「そんなこと聞いてんじゃねーっつーのっ!」
 コエンマの無味乾燥とした説明に、桑原は再び、今度は左手だけでコエンマの胸ぐらを引っ掴んだ。右手は無意識のうちに、古傷を押さえている。
「てめーは…てめーは、命をなんだと思ってやがんだ、霊界の長だからって、勝手に生き返らせたりすんじゃねーよっ、命ってのは、人間だろうが妖怪だろうが、それはそいつのもんだ!神様きどりの誰かさんに、好き勝手されていい命なんて、あるはずがねえっ!」
「…その通りだ。だから、ワシは戸愚呂を生き返らせた」
 桑原の怒声をそう肯定したコエンマの、ふだんはとぼけたような、そしていかにも貴公子、といった温和な表情が、滅多になく苦渋に満ちたものであることに、桑原は気がついた。
「どういう…ことだよ…」
 桑原はコエンマのただならぬ様子と不可解な言葉に、彼の胸ぐらから手を離した。
「詳しい話は後で、な。今はただ、霊界が戸愚呂に借りがあったからとだけ、理解してくれんか」
「…」
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