月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【五】
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1.

「うわあっ!」
 いきなり、桑原は掴まれていた右手を離され、コエンマともども地面に転がった。
「い、いってー!急になにしやがるんだ!」
「戸愚呂、お前は…なんということを…」
 ふたりの抗議に、戸愚呂は静かな声でこう答えた。
「こんな男を生き返らせてくれた慈悲深い王子様には悪いが、霊界のイヌになる気はさらさら無くてねぇ…こういう手段をとらせてもらった。こいつが現れた時、このアイデアが浮かんでねぇ」
「はあ?一体何が…」
 戸愚呂は黙って桑原に首輪を指差して見せた。先ほどまで白かったそれが、今は淡い金色になっている。
「あれ?さっきまで白くなかったか、それ…」
「…お前の霊気を吸収したからさ、桑原。つまり…」
 戸愚呂の言葉が終わらぬ先に、コエンマが桑原に土下座した。
「すまん、桑原、ワシはまたしてもお前を巻き込んでしまった!」
「な、なにがなんだか…おい、コエンマ、あやまるより先に説明してくれ説明を!」
 コエンマは土下座したまま、以下のように説明した。
「つまり、その、戸愚呂の飼い主は桑原、お前ということになってしまったのじゃ」
「はあ?冗談じゃねぇ、こんなでっかい、しかも可愛くもないイヌなんていらねーぞ!」
 戸愚呂がまたしても咽喉の奥でくくく、と笑う。
「だったら桑原、俺のことを憎むといい。お前が憎めばその気持ちに応じてこの首輪は締まる。息の根を止めたければお前が望むままに、この首輪は俺の首を俺が死ぬまで絞め続ける」
「な…」
 その突き放した言い様に、桑原は唖然とした。
「…戸愚呂…お前は…桑原をまたしても利用するとは…」
 戸愚呂はコエンマを一瞥した。
「せっかくもらった命だからねぇ…惜しくもなるさ。だから、一番確実な方法をとらせてもらった。あの時と同じように、ね…」
「…!…」
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