月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【六】
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1.

「いやしかし、いつものこととはいえ、また、社長のご子息とはいえ、素晴らしいプレゼンでしたな」
 さっきから、グラスを片手にした部長のこの言葉を何度聞いたことか。
 だが、酔っぱらいが同じセリフを繰り返すのはお決まりのことではある。
「ですよね。このパーティの主役は本当なら主任ですよ」
 ほのかに顔を赤くしている新入社員も部長に頷く。
「そんなことはないですよ。みなさんの一致団結の結果です。俺はその手伝いが出来ただけですから」
 周囲の賛辞の言葉に彼が謙遜すると、部長と社員はため息ついた。
「もっと自慢してもいいと思うんだが…」
「僕もそう思います。南野主任のあの強気で完璧なプレゼンがあってこそ、この大型プロジェクトが成功したんじゃないですか」
「でも、俺ひとりで出した結果じゃないんですから、そんなに褒められても困ります」
 と南野主任こと、蔵馬は苦笑した。
 彼は名門の進学校である盟王高校卒業後、母の再婚相手、つまり義理の父の経営する会社に就職していた。
 大学進学を誰もが勧めたのだが、義父の会社を手伝うことの方が面白そうでもあり、何より会社を大きくして、苦労してきた母親に何不自由のない生活を送らせてやりたかった。
 入った当初は義理とはいえ社長の息子、ということで、一部には冷ややかな視線や厳しい眼差しで見やる社員もいたのだが、蔵馬が雑用から難しい顧客の接遇、営業から企画にいたるまで、すべてをそつなくこなすのに、その視線と眼差しは羨望と尊敬の色へと変わっていった。
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