月喰いの夜刀
□月喰いの夜刀【七】
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7.
真夜中、ベッドを抜け出した彼女は、部屋を出ると階段を音をたてぬように足を運んで降りた。
カーテンからかすかに洩れている月明かりを頼りに、しん、と静まりかえっているリビングを通り抜け、キッチンの冷蔵庫に手をかけた。
静かにその扉を開け、中から取り出した麦茶をコップに注ぐ。
なんだか寝つけない。この蒸し暑さがそうさせるのか、それとも…?
逡巡し、コップを手にして、彼女は闇の中、立ちすくむ。
と、いきなりキッチンが明るくなったのに、彼女は驚いて明かりのスイッチがある方向を見やった。
「どしたの、雪菜ちゃん」
そこにはパジャマ姿の桑原和真の姉、静流が立っていた。
「ごめんなさい、静流さん、起こしてしまいましたか」
「いや、あたしも寝苦しくなっちゃって。麦茶あたしにもちょうだい」
「はい」
コップに麦茶を注ぎ、雪菜は静流に差し出した。
「ありがと。それにしても暑いね、今日。まだ六月だってのに」
「そうですね。でも当分、こんな温度と湿度、だそうですよ」
静流は「うわ、やだやだ」と大げさに呟いて、麦茶を飲み干した。そして、不意に雪菜をじっ、と見やる。
「どしたの?なんだか最近元気ないね?バイトきついかな?」
「いいえ、そんなことないです。毎日お花に囲まれて、夢のようです。お店のご主人も奥さんも、とてもいい方で…」
「それなら、いいんだけど、この間は大変だったみたいだしねー」
「いえ、ご主人のお母さんのおケガが軽くすんでよかったです」