月喰いの夜刀
□月喰いの夜刀【八】
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1.
森の奥にある、避暑地として使われている、とある屋敷。
リゾート地によくあるペンション風やコテージ風のものではなく、本格的なカントリーハウスで、むしろ遺産をめぐっての連続殺人事件でも起きそうな、英国風ミステリーの登場人物の気分が味わえそうな建物だ。
今夜、この中で行われていたのは、そんな殺人事件なみに人間の欲望が渦巻くイベントだった。
人間による、妖怪の売買。
魔界からそれぞれ目的にあった妖怪を召喚し、それを必要とする好事家たちに売りさばく。闇の世界で連綿と行われている、忌むべきイベントであった。
そんな組織の筆頭であったBBCは、左京をはじめとする中心者たちの死により、弱体化はしていたが、悪人どもの組織の常として、一枚岩ではないために根絶しにくい。
早い話が裏社会でトップに立ちたい、という連中がボウフラのように次から次へと闇からわいて出てくるのだ。
この屋敷の持ち主も、そういった人間のひとりだった。
柱頭にアカンサス模様が施された四本の柱で支えられた玄関先ポーチから出て来たのが、この家の女主人、宮樽(みやだる)である。
名前の通り、少々美食が過ぎたか、樽のような体型で、ご面相もまた、化粧でシワとシミを必死に隠し、太短い指10本すべてに趣味の悪い、でかいだけが取り柄の宝石の付いた指輪をはめている、という、あまり描写したくはない女性であった。
そのうしろには器量はそこそこだが、軽薄そうな若い男が追従していた。
「今日もうまくいったね、マダム」
男は猫なで声を出しながら宮樽の前に回り込み、うやうやしくその手を取る。
「大成功よ。これでまたお前が欲しがるものを買ってあげられるわ」
これもあまり描写したくないが、ここでふたりはキスをしている。