月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【九】
1ページ/5ページ

1.

「く、蔵馬、ど、どうして…」
「それは俺も言いたいセリフだよ、桑原くん」
 にこり、と蔵馬は笑ったが、その目が笑っていない。
「ええと、その、なんだ、これには色々とワケがあってだな…」
「ふうん、それは是非聞きたいな。どんなワケなのかな、桑原くん」
 桑原の背中を大量の冷や汗が流れ落ちてゆく。
「…あんたのことだから、事情はもう調査済みなんじゃないのかねぇ」
 戸愚呂が言うのに、蔵馬は返答しなかったが、そのこと自体が図星であると言っている。
 実際、蔵馬は霊界のコエンマを問い詰めて、今夜のこの場所を聞き出して、ここにやって来たのだった。
「そ、そう、なのか?だったら…」
「コエンマの説明では俺が納得していない、としたら?」
 これは相当怒ってる、と桑原は思った。冷静沈着な蔵馬だが、時々、本当に時々、妙なところで不機嫌そうな声音で話すことがある。顔が笑っていて、声がこわい、というパターンの時だ。
「…お前に、先に言わなくて悪かったよ。でも、戸愚呂が本当に霊界の協力者になったことを、今回のことで証明してから、みんなに説明しようと思ってさ…」
 『お前に先に言わなくて悪かった』というのが、桑原の蔵馬にあやまる時の常套句だった。何かあった時、蔵馬に最初に連絡しないと不機嫌になる、と桑原は思っている。
 実はこれは半分は正解で、半分は間違っていた。蔵馬はそれほど子供ではない。
 ただ、桑原に関わることを、彼から直接連絡を受けないと気がすまないだけなのだ。
「俺が納得していないのは、戸愚呂のその首輪がどうして桑原くん、貴方の霊気の色をしているのか、っていうことなんだけれど」
「…」
 桑原は何か言いかけて、口をつぐんだ。うまい言い訳が見つからなかったのだ。
「…俺が無理強いしたからさ」
 あっさりと、戸愚呂がそれに答える。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ