月喰いの夜刀

□月喰いの夜刀【十】
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1.

 どこかで誰かが泣いている。

 咽喉が嗄れて、血を吐きそうな、あまりにも激しい泣き声。

 誰だ?

 なんでそんなに泣いている?

 薄暗い闇の中で、目をこらしてみる。

 …そこにあるのは、いくつもの、屍。

 折り重なっている死者たちの中央で、誰かがひとり、泣いている。

 おのれの無力さと弱さを呪い、悔しさと哀しさと恨みと怒りとに溢れた…絶望の声で。

 もはや命を失った、血まみれの誰かの身体を抱きかかえて。


 大きな身体を折り曲げて、鬼が哭いている。


 いつまでも、いつまでも…

 …誰だ?


 誰…



 ふっ、と意識が覚める。
 目を開けると、そこには見慣れた寝室の天井。
 うーん、とベッドの中で伸びをして、すぐ起きる。
 カーテンを開けて、外が快晴であることに目を細め、そしてここから見える景色も楽しむ。
「ホントに、眺めはいいよなぁ」
 瞼をこすり、その手の甲に触れたものに気がつく。
「?」
 涙だ。自分は泣いていたのだろうか?
 そういえば、なんだか悲しい夢を見たような気がする。救いのない、悲しい夢を。だが、その内容は覚えていない。
 彼の起きた気配を察して、寝室のドアにある猫用の小さなドアから、子猫が四匹、並んで鳴きながら走り込んできた。
「わかったわかった、今、朝ごはんやるからな」
 みゃあみゃあと甘えた声で足元に纏わりつく子猫たちを、危ないから、と四匹すべてを抱きかかえ、キッチンへと向かう。
 出窓から日の光が惜しみなく注がれている、明るいキッチンではあるのだが。
「やっぱ、無駄に広いよなぁ」
 と、ぼやくように彼…桑原は言った。
 大学入学と同時に「独立しな」と実家から追い出されることが桑原の意志とは関係なく決定した。
 雪菜と引き離される悲しみにくれながら、重い足取りでアパートを探していた彼に、さる企業のトップから、さる邸宅に結界を張ってもらいたい、という依頼が舞い込んできた。
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