Short

□The hill of KARMA
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この町の・・・この世界の治安は乱れに乱れまくっている。





オレがレンジャーになる何年も前の話だ。





オレの住んでいた町は治安が悪く、そして金持ちと貧民の格差が広がっていた。

その頃オレはまだ10歳だった。両親もなく、オレはたった一人で住んでいた。生きるために、オレは毎日パン屋に盗みに入っていた。オレは5歳の頃から盗みというものを覚えていった。

自慢じゃないが足には自信があった。自分で言うのもおかしいが、自分は風のようだと思っていた。醜く太った大人達から逃げるのは簡単だった。生きるためにオレは盗み、そして走った。

盗むことが悪だとは思わなかった。金で解決しようとする大人達の方が悪だと思っていたからだ。だから、毎日盗みを働いた。

どうしてオレがこんなことをしなくてはいけなかったのか。どうしてオレは貧乏なのか。

天国はもちろん、地獄さえここよりもマシならば喜んで行くだろう。人は皆平等なんて、どこのペテン師のセリフなのやら。



ある日、いつものように盗みを働いていた。パンを抱えて町中を走っていた。後ろからはパン屋の主人が追ってきていた。だから必死に走って逃げていた。

角を曲がってようやく振り切れたころ、一つの行列とすれ違った。綺麗な服装、そして太った大人達。明らかに金持ちだと分かった。その中に、一人の少女の姿を見つけた。彼女は色が白く、可愛らしい服装をして綺麗だった。オレは暫くその少女に目を奪われていた。

だが、少女は悲しげに俯いていた。その瞳には涙が浮かんでいて、その少女はどこか遠くから売られて来たのだとすぐに分かった。

少女はその金持ちの大人達に連れられ、大きな屋敷の中に消えていった。オレはそれを見届けると、持っていたパンを放り投げて走り出した。

走っている間も、少女のことを思い続けていた。あの綺麗な身体に、大人の穢れた手が触れているのだろうと思うと腹が立った。だけどオレには力はなく、できることは少なかった。少女だって、自分の考えや意見を持つことは許されなかった。それほどひどい世界だった。

神様、何故オレ達を愛してはくれないのですか。オレ達が一体何をしたのですか。そう問い続けた。


夕暮れになるのを待ち、町にある武器の店に剣を盗みに入った。あの屋敷からはかなり距離があったが、この町に武器の店は1軒しかなかったから仕方がない。

剣は思った以上に重たかった。オレはその剣を引きずって屋敷を目指した。その姿はきっと風と呼ぶには悲しいであろう。だけどオレは必死にそれを引きずって走った。オレは業(カルマ)を背負って走っていた。この先に何が待っていても受け入れるつもりだった。

屋敷に着いて、オレはすぐにその屋敷に殴り込みに入った。剣を振るい、この屋敷の人間を切りつけた。刃向う者はこの剣で赤く染まって行った。少女のいた部屋に、この屋敷の主人と思しき男がいた。オレはなんの躊躇いもなくその主人を切りつけた。男は命乞いをしてきたが、オレはそれを無視し、その剣を突き立てた。

男の顔の横――床に剣を突き立てたが、男は失神して動かなかった。それを確認すると少女の元へ急いだ。少女の魂は壊されていた。オレを見てただただ微笑むだけだった。

少女はオレに言った――殺してくれ、と。

少女はもう生きる意味もそしてその希望も失くしていた。オレは小さく頷いて剣を握った。

ごめん。そう呟くとオレは少女に剣を突き立てた。


オレはその屋敷を後にすると、泣くことも忘れパンを盗みに行った。空腹を思い出していた。

オレは痛みを感じていた。貧民としての生活の痛み、盗みを働くことの痛み、人を傷つけた痛み、そして――少女を失った痛み。





それからこの世の治安はよくなり始めた。人を傷つけるという罪を心の奥底にしまい、オレはレンジャーという世界に飛び込んだ。

世界中の困っている人・・・悲しんでいる人、そしてポケモンを助ける仕事だ。

もう二度と、あの少女のように消えゆく命を見ないで済むように。今度こそ助けられるように。

あの少女の最期の微笑みは、今でも脳裏に残って消えない。



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