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□近いのに遠い人
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携帯を見つめてみる。時刻は午後7時。大抵の会社や学校では帰宅時刻を過ぎている。故に私はもう家にいる。そろそろ大好きなテレビ番組が始まる頃。あぁ、テレビが始まった。もう一度携帯を見つめる。1分1秒、狂いなく時計の時刻は進む。

テレビ番組も後半、携帯を見つめる。あぁ、もうあれから30分も経ったのか。願ってもその携帯は鳴ることはなく。ただただ、時計代わりにしかならない。電話もメールもない。電話がかかってくればいいのに。なんて、願ってみても叶うはずなく。

だって、向こうは・・・相手はどうも思ってないのだから。そう、一方的。所謂、片想い。

あぁ、もう番組も終盤、時刻は7時50分。今日もなかった。あるはずはなかった。

どんなに想っていても、所詮は一方通行。自分に自信はない・・・好きなのに。LIKEじゃなくて、LOVEのほう。いつも会ってるのに。いつも会っているから、想いは募る一方。

話が合わなくても、必死に合わせようとしてみたり、自分から話を振ってみたり。でもね、最近は話を振ることができないんだ。だって、気持ちを抑えるのが難しいから。失態なんて、見せたくないでしょ?それに恥ずかしい。

でも、どうにかして気を引かせたくて、でも、気付いてほしくなくて、右往左往、試行錯誤、もういっぱいいっぱい。

例え他の人があの人の趣味を否定しようとも、自分は否定しない自信がある。でも、あの人は私じゃない。必要なのは、他の誰か。

気持ちを抑えるのが難しいから、私はわざと話しかけない。向こうが話しかけてくるのを待つか、それとも・・・、他の誰かが、あの人に話を振ってくれるのを待つか。

たまにくる、なんでもないメールはとても嬉しい。でも、でもね、電話もほしいくらい。なんて、きっと話す事柄はないし、電話なんてするはずがない。

飲み会や集まりの後にお世話になりましたってメールするけれど、返ってくるまですごくドキドキ、この心臓が壊れるんじゃないかと思うくらい煩い。

あの人の優しさにいつも感謝してるんだ。でも優しいのは私にだけじゃない。皆に優しいから、少しだけ嫉妬してしまいそう。ちょっとだけ意地悪だけど、それも皆に対して同じだから、自分だけ特別じゃない。それが少しさびしいかな。でもね、いつも本当に感謝してる。

好きで好きで仕方がないから、毎日職場に行くのは辛くない。お休みの日は少しだけ残念だけど、でも毎日会えるんだって思うと嬉しくて。

でも、あの人が必要なのは、私じゃなくて・・・。知ってるの。あの人が好きな女(ひと)のこと。綺麗な髪をした、美しい瞳の持ち主。私とは比べ物にならないほどの。あの人がその女(ひと)を好きなこと、知っているから。

だから、私は関わらないの、あの人に。見てると辛くなっちゃうから。だから訊かないの、好きな人いないんですかって。きっと私はあの人の前で、哀れな女を演じているのね。






近いのに遠い人






(「どうしたの?」なんて、私の心臓を壊すようなことはしないでよ!)



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