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□逃げ道は断たれた
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死ぬかもしれない、と思った。捕まれば間違いなく殺されるだろうと思った。逃げきらなければ、明日は来ないと思った。絶対に捕まってなるものか。なのに、いとも簡単にそれは覆された。



「逃げきれるとお思いですか?」



目の前に現れたのは、私が逃げていた相手、緑色の髪の青年。団内一冷酷だと、自分で言っていた。それはそれで面白いのだが、今はまったく面白いとも思えない。自分は、殺されるかもしれないというのだから。

事の発端は、私がこの人の殺人現場を目撃したことから始まった。ちょっと森へ出かけたときだった。かなり奥まで足を踏み入れてしまい、元来た道を戻ろうとしたときーー

パン、と乾いた音が響いた。それもすぐ近くで。草むらの影からそっと音のした方を見ると、黒服の男が銃を構えて立っていた。その先で一人、恰幅のいい男が胸から血を出して倒れていた。



「私は団内一、冷酷だと呼ばれた男・・・。お前を殺すなんて、ワケないのですよ」



口端を釣り上げ、動かなくなった男にそう呟いた青年を見て怖くなり、ゆっくりと後ずさったが、小枝を踏みつけてしまいその折れた音で気付かれた。目が合った、瞬間に逃げ出した。

殺される。

必死に走った。後ろから追い掛けてくる足音や、雑草を踏みつける音が聞こえていた。光が差した。やっと出口だ。やった。そう思った。森を抜けるとすぐに自分の家へ走った。その頃にはもう、足音も聞こえなくなっていた。自分の家は森から遠いから、簡単には家が特定されないだろう、と思った。暫くは森にも近付かないようにしようと思っていた。明日から親戚の家に寝泊まりさせてもらおうと思っていた。

なのに。

その夜、彼はやってきた。寝ようとベッドに入ったところで、足音一つ立てず、たった一人でやってきた。でも彼の服からは、微かに血の臭いが漂ってくる。顔にも少し、赤い液体が、付着している。一体誰を殺した?

怖くなった。睡魔がいっぺんに吹き飛んで、今度はぞくぞくと悪寒が走った。

殺される。

鼓動が煩いくらいに激しく動く。額から冷や汗もかいてきた。血の気が引くのが分かる。助けを呼ぼうにも声が出ない。



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