教育実習生 坂田銀八

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「あ〜あ。昼メシ食ったら午後からダリーな、オイ」

窓際一番目にある僕の席の前にパイプ椅子を置いて腰掛けた坂田先生が、足を組みながら大あくびをした。

「…坂田先生、いっつもダルそうじゃないですか」
一応小声で正直な感想を述べてみると、
「それもそうだね」
と、アッサリ認められた。

いいのかよ、ソレで。


彼は、授業以外にも、ちょくちょくA組に顔を出す。
昼休みも大概は、売店で買ったパンを片手に教室にやって来る。

普通、教育実習生って、少しでも多くを学ぶべく担当教師にくっついてるもんだと思ってたんだけど。
職員室で次の授業の準備とか、実習日誌の記入とかに余念がなくて、忙しいもんだと思ってたんだけど。


「…坂田先生、昼休みとか職員室にいなくていいんですか?」
「バカ、おめー。あんな堅っ苦しいトコで、いかつい顔したオッサンの隣にずーっといてみ?窒息死しちまうよ。つーか銀八先生でいーって」
「小笠原先生厳しい人だから、なんて言われても知りませんよ。坂田先生」
「気持ちいいほどわかりやすくスルーすんのね。宇都っち」
「やめて下さいよ。宇都っちって」


なんなんだ、本当に。
自分が職員室にいるの嫌だからって、ここに来るのはやめてほしい。


僕はそれ以上構うまいと、手元の参考書に目を戻した。

「昼休みまで熱心なこったなァ、オイ」

呆れたように坂田先生の声がかかる。

「受験生ですから」
「英語ォ?日本人なら国語やろーや」
「苦手なんです、英語。苦手教科克服しないと意味ないじゃないですか」
「そーいや、A組は進学クラスだって小笠原センセーが言ってたな。…にしたって、お前、こんな静かな昼休みアリかよ」

そう、昼食後の時間を利用して、勉強しているのは僕だけではない。
クラス中がそれぞれ、ノートを広げ、教科書を広げ、下を見ている。

交わされる会話も必要最低限といったところ。





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