教育実習生 坂田銀八

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「来週テストなんですよ」
「お前らねェ、休み時間つーのは休むためにあんだよ?オンとオフの切り替えが下手な奴ァ大成しねーよ?」

坂田先生の低いけれど通る声は、僕だけじゃなく静かな教室内すべてに向けられているようだった。
でも、誰も、顔を上げようとはしない。

「次のテスト、失敗するわけにいかないんです。うちのクラス。邪魔しないで下さい」
「なんで?なんかあんの?」
「…なんで、って」



前回のテストの後、小笠原先生が僕らに言った言葉を思い出す。


受験を控えた3年生だというのに、自覚が無さ過ぎる。
今年卒業したA組は、去年の今頃もっと高い平均点をとっていたというのに。
物事、結果がすべてだ。結果を出せないようでは、なんの意味も無い。


みんな無言のままに感じたプレッシャーを持ち越したまま、次のテストは目前。

結果を出すこと。
結果とは、良い点を取ること。去年のA組を越えるような。
そうすれば、きっと意味が出る。こうして勉強していることに、意味が見える。

なのにどうして、こんなに漠然とした、何かが見えないような、そんな気持ちなんだろう。

たまに答えを求めて顔を上げてみる。
けれど見渡せば、みんなが下を向いて勉強しているから。
だから慌てて自分も教科書に目を戻す。

そんな、毎日。



「とにかく、みんな集中してるんだから静かにしてあげて下さいよ」
「へーへー」

やっけな返事をしながら、坂田先生はポケットから取り出したタバコを当然のように口にくわえる。
そして火をつけ…ようとしたところで「ああ、違う違う」と我に返ったように手を止め、タバコをしまいなおした。

食後の一服ができねーのは辛ぇーなァ。
教師なんてなるモンじゃねーなァ。
なんて、グダグダ言いながら手の中のジッポを名残惜しげに弄んでは火を付ける。


…まったく。なんて教生なんだろ。ホントに。






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