教育実習生 坂田銀八
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「…坂田先生は将来教師になるって夢があるから、教育実習マジメに頑張ってるわけですもんね」
多少の皮肉を混じえて僕が言うと、坂田先生は「あ?」と目を開けた。
「俺、別に将来教師になるとか決めてねーよ?」
「え?そうなんですか?」
「とりあえず教員免許くらいとっとくのもアリかな〜と思って来てみたけど」
「…」
ああ、そう。
普段のやる気のなさの理由が一気にわかったよ。
「じゃあ嫌々やってる感じなんですか」
「別にィ。てめーで決めて来たのにわざわざ嫌々やるこたァねーだろ。そこはてめー次第じゃね?日誌だの計画だのはメンドくせーけど」
「…嫌じゃないんですか、実習。怒られてばっかりに見えますけど」
「ま〜な〜。オッサンな〜。すぐキレっからな〜。やっぱ評価下がっと免許取らしてくんねーのかな〜。だからってオッサンに愛想振ってもな〜」
ウダウダと椅子を揺らしながらグチる坂田先生。
でもまァ、と一旦切った言葉を繋げる。
「俺には縁のねぇ、優等生なんつーのを間近で見れておもしれーからいんじゃね?あとはな〜、教育実習生っつったらモテるもんだと思ってたのに構ってくれんの宇都君くれーなのが華がねーっつーか。もうちょっとこう、女子がキャッキャ言ってくれりゃあ充実すんだけどよォ〜」
わざと訴えるような物言いに、クラスの女子数人が、クスクスッと小さく笑い声を立てた。
「何よ、意外に脈アリ?繰り返すけど俺、彼女ぼしゅー中なんで」
「生徒に手なんか出したら小笠原先生、倒れるくらいキレますよ、きっと」
僕の隣で、横山さんが笑いながら言った。
「あ〜、ソレはソレで見てみてーな。倒れさせちまえば、ある意味こっちのモンだからね」
「…たしかに見てみたいかも」
僕の後ろの女子が坂田先生の言葉に賛同する。
「いっつも顔こえーから、倒れてる間にマジックで笑顔にしとけば平和な感じになんじゃね?」
その隣の男子がそれに続く。
ソレ、いい!
周囲の数人から笑いが起こった。
「おめーら結構ハナシわかんじゃねーの」
口元で笑いながら、坂田先生はポケットに手を入れ、タバコを取り出す。
くわえて火を付けようとして、寸前で「違う違う」
「いや、何回やるんですか!」
僕がつい声高にツッコんでしまうと、先生は一瞬黙った後、ニヤリと笑い、そして、
「宇都っち、い〜ツッコミすんじゃねーか。その感じで頼んだぞ?これからも」
なんだか満足げにそう言って、僕の肩をポンと叩くのだった。