教育実習生 坂田銀八

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なんか、こんな風に声を上げるのも。
授業中や休み時間に、クラスから笑い声が起こるのも。
久しぶりな気がする。


けれど、いいのかな。これで。
楽しいとか言ってる場合じゃないって。
そう言ったのは自分じゃなかったか?
次のテストにだって、本番の受験にだって、時間は近付いていく一方なのに。
こんなことじゃ、だめだ。
何、ペースに巻き込まれてるんだよ。
たかが教育実習生の。


「あのさ、横山さん。そろそろ僕も自分の勉強したいから…」

焦燥感に駆られて僕が言うと、彼女は、
「そうだよね?ごめんね、つい頼っちゃって…」
と、慌てて立ち上がり自席に戻って行った。

その申し訳なさ気な表情と、うつむく後ろ姿に、なんだかものすごく悪いことをしたようで。
また何が正しいのか、よくわからなくなる。
今まで積み重ねてきた自分が、グラつきそうだ。
こんなに優柔不断だったんだろうか、僕は。



「宇都っちィ」

手元の参考書に目を戻した僕に、向かい側から例の気だるい声が掛かる。
顔を上げると、彼はいつものようにぼんやりと窓の外を見たままだった。

「…なんですか」

「脇目なんてモン振らねーに越したこたァねーだろーけどよ。てめーのクソ狭い机の上だけで決着つくことなんざ、そうありゃしねーぞ」

淡々とした坂田先生の台詞に、僕は言葉をなくした。

何言ってるんだよ。この人。
なんで、急に。
そんな、まるで、僕の考えていることがわかってるとでも言うかのように。

僕はもう一度、自分の手元を見た。
ノートと参考書、ペンケース。転がるシャープペンシルと消しゴム。
自分の両腕2つが乗って、それで一杯の、僕の机。

ここから立ち上がれば。脇目を振れば。
何か、見えるとでも言うのかよ。


彼は僕に返事を求めようともせず、ただ気の無い顔で外を見ている。

もしかして、この人は。
本当は、やる気の無い実習生なんかじゃなくて。
本当は。



「な〜な〜、宇都っち。つーことだから、勉強一旦休憩して、学級委員権限で、俺が教室でタバコ吸っちゃってもナイショにすること、っつー決まり作ってくんない?300円あげるから」
「…」


前言撤回。
100%、ただのダメな教育実習生だよ。この人。






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