教育実習生 坂田銀八

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テスト前日。

風邪で休んでいた木村君が、ようやく学校に出てきた。
何日休んでいたんだっけ。
…よく思い出せない。


「木村。もう風邪いいの?」

クラスメイトに対する自分の関心の低さに若干湧いた罪悪感を打ち消すように、僕は彼に声をかけた。

「あー、うん。も、平気。テスト前なのに3日も休んじまったよ」

そう答えて笑う木村君は、言葉の割に焦りが無い様に見えた。

「あのさ…宇都。坂田先生…なんか言ってた?俺のこと」
「坂田先生が?なんで?」

休み明けの木村君の口から何故急に坂田先生の名前が出てくるのか。
まるで繋がりがわからないで戸惑う僕に、木村君が、「実は」と口を開いた。

「休み中に電話かかってきたんだよね。坂田先生から」
「ええ?電話?なんて?」
意外な言葉に、僕は尋ね返す。

「『昼休み席借りたわ〜』って」
「…それだけ?」
「『宇都君最近イヤな顔するし、助かったからもうちょい休んでてもいーぞ』とか言って。病人になんの嫌がらせかと思った」

そう言いながらも彼の口調は怒っている様子も無ければ、呆れた響きも無い。
変な人だよな、なんて言いながら先を続ける木村君。

「俺さ、テスト勉強進まないしちょっと焦ってたから聞いたんだよね、坂田先生に。みんな勉強進んでるみたいですか?って。そしたら『俺のテストじゃねーし、知らねーよ』って。『おめーもおめーのテストなんだから他の奴関係ねーだろ』ってさ」
「…」
「でもこの分じゃいい点取れそうにないし、って俺がブツブツ言ったら、『いんじゃね?点悪くても言い訳あんだし、次もあんだし』とかすごいどーでも良さそうに言われて。で、『じゃ明日も席借りるわ』って一方的に切られた」
「…わざわざそんな電話してきたの?坂田先生が?」
「なんかあのやる気の無い声聞いてたら、まいいかって思っちゃって。つい、ゆっくり休んじまったよ」

お陰で全快したけど、なんて。
木村君は毎日学校に来ていた僕なんかより、ずっとスッキリした表情で笑った。



坂田先生が。そんなことを。
何一つ僕たちのクラスになんて興味の無さそうな顔をして。
何一つ見ていないようなぼんやりした目で。

深い考えがあってのことなのかは、わからない。
ただ、なんとなく電話してみただけなのかもしれない。
けれどその行動は、クラスメイトである僕らのうち誰もが思いつかなかったことで。
こんな時期に3日も学校を休んでいる友人に、誰か一人くらい声を掛けたって良さそうなものなのに。本当なら。


何一つ見ていないのは、僕らのほうか。
机の上しか、見ていないんだ。きっと誰もが。






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