教育実習生 坂田銀八

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その日、昼食を終えると僕は、机の中から英語の教科書とノートを引っ張り出し、小脇に抱えて立ち上がった。
そのまま教室の後ろへ向かう。

坂田先生にあんなこと言われたからじゃない。
そういうわけじゃ、ないぞ。

窓際1番後ろの席の前で僕は立ち止まった。

「あの、横山さん。ちょっとだけ英語のわからないとこ教えてもらえないかな」

数学の参考書と睨めっこしていた彼女は、驚いたように視線を上げて、恐らく決まり悪げになっているであろう僕の顔を見た。

「えっと、自分の勉強終わってからでいいし、今日じゃなくてもいいんだけど…」

慌てて付け加えると、彼女は「いいよ、座って!」と自分の教材を寄せて僕のためのスペースを作ってくれた。
この間、僕は拒否したと言うのに。


「何、宇都、英語苦手なの?」

唐突に横山さんの隣の席の男子から声が掛かった。

「うん。なんか文法とか全然理解できないんだよね」
「えー。お前頭いいのに。ていうか俺も英語ダメ。横山さん得意なの?俺も教えて」

机を寄せ合う人数が、増えた。
このやり方が正しいのかなんて、わからない。けれど。

「宇都。文法ならこの参考書すげーいい。駅前の本屋に売ってた」
「あ、私もそれ持ってる」
「え?マジ?帰り買いに行こうかな」


とりあえず、机から立ち上がってみること。
僕には他に、方法が思いつかないから。

何か、見えるだろうか。
こうすれば僕にも、見えていなかった何かが見えるのだろうか。






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