V


秋風
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もう数日前に既に葉を全て落としてしまった木……

中庭の…桜の木……




全てを凍らせてしまうんじゃないかと思う程冷たい風



痛みさえ感じるその風の中に


それでも私は座っていた……







「さむっ……アンタ、よくこんな所にいるよね…」



凍える風に乗って綺麗なハスキーボイスが響いた





『そー言いながら越前も出てきてるくせに』



サクサクと枯れてパリパリになった落ち葉の上を歩く足音と共に、小柄な少年が姿を見せた





「ねぇ、なんでこんなトコでサボってんの?他にも特別教室とか…結構あるじゃん」



『うーん…なんでだろうねー…』






言えるわけないじゃない


ここにいればアナタが来てくれて……



この時間を手放したくなくて離れられない、なんて……――







「寒いじゃん……これなら教室で寝てる方がマシなんじゃない?」




『……ん…じゃあ、来なきゃいいじゃん』





嘘ばっかり


越前が来なくなったら私もこんな所にいる意味、なくなるんだから……






「ヤダ」




すっぱりと返ってくる短い返事




その否定の言葉に安堵と喜びを感じる





『なんで?』




なんて

小さな期待を込めて聞いてみたりして……












「アンタがいるから」









……私は驚いて…一瞬頭が真っ白になった……









「俺、アンタが好き」




追い討ちをかけるように紡ぐ言葉





思わず頬を暖かい雫が流れた







「何泣いてんの」



『だっ……嬉しっ……』



「返事は?」



『私…っも……好きっ!!』







一瞬……暖かい風が2人の間を通り抜けたけど




「ねぇ、次から場所、移動しない?」



『……うんっ!!』






また暖かくなった時


この場所に2人一緒に戻ってこられますよう……――









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