V


□graduation
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「先輩、」



たったの一年で随分聞き慣れてしまった声が校門へ向かう私の足を止めた



振り返った目の前には思い浮かべたそのままの


『どうしたの?リョーマ』


「何帰ろうとしてんの」


『だってもう式は終わったし』




少し不機嫌そうな彼の顔


顔を見て話すのはやっぱり少し久しぶりだ




「先輩達、コートで騒いでるけど?」


『知ってるよー英二がクラッカー持ってたしー』


「来ないの?」


『何〜?私がいないと寂しいんだ?』




本当に寂しかったのは私のくせに

それでも、ここで一緒にいるとまた別れが寂しいのなんて知ってるから





「寂しいよ」




『―――っ!!』



不意に抱きしめられて囁かれるその言葉


つい先ほど使い切った筈の涙が後から後から溢れ出る

これは明日は真っ赤に腫れるな


なんて無理矢理に馬鹿なことを考える




「寂しかった…声だけじゃ、全然足りなくて」


『私もっ…だもんっ!』


「ごめん……っ」





溢れ出したら出したで全然止まらなくて

リョーマが珍しく優しいのをいいことに私は全てを吐き出した




ひたすらに“ごめん”なんて聞き慣れない言葉をあんまり切な気に囁き続けるその声は

よけいに私の涙を誘った







『ばかっ……』






しばらくしてリョーマに倒れ込むように支えられたまま、私は最後の一言を吐き出した




「ありがと」




そして彼から返される一言

それが何に対してかなんて痛いくらいにわかる





もう置いて行かないで、



なんて…そんなこと言ったりしないから



ねぇお願い






『まだしばらくリョーマからは卒業させないでね』







小さく笑った彼の声を肯定ととって



「おチビ〜!戻って来ーい!!」


なんて後ろで叫ぶ英二のところへ


手を繋いで少し急ぎ足で戻る








graduation

(手塚と試合するんでしょ?)
(ん…見ててよね、)
(ふふっ、負けるのを?)
(ばーか)










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時期的には最終42巻の巻末小説と被ります

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