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□3回コール
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携帯電話の液晶画面だけが明るく光る
意味もなくボタンを操作して明るさを保つ
私の横を少し涼しくなった風が通り抜けた……──
「………何?こんな時間に……」
不意に何も音の無かった世界に響く呆れた声
『家出した。頭冷やしたいから傍にいて』
少しずつ液晶の光る世界に近付く足音と
少しずつ露になる不機嫌で、でもどこか“しょうがないな……”とでも言っているかのような彼の顔
「また親と喧嘩?」
彼はなんでも知ってる
なぜか私がなんでも話せるから
『そ。今日はお皿2枚とコップ割っちゃった………』
「……──そ。」
彼は何も聞かない
なんで喧嘩したのか
なんで自分を呼んだのか
ただ、興味無さげに隣に座っているだけ
私はそれが心地よくて
安心できて
いつも彼を呼ぶ
私が知ってるのは携帯の電話番号だけ
3回コールすると彼はいつもの、この土手に来てくれる………
いつからかわからない私達の間の約束
『お母さん、泣いてたわぁ………家出てきたとき……───』
『あれは、私が泣かせたのかな………お父さんが泣かせたのかな……………』
『私って親不孝な娘かな…………』
「…………」
彼は何も言わない
肯定も否定もしない
慰めの言葉を掛けるわけでもない
彼がこちらを向くのは
『なんかもう、どーでもいーや』
私が投げやりな言葉を紡いだときだけ………
こちらを向いて
手を握ってくれる……──
その行動だけで、
私は此処にいていいのだ
と思える
全てが軽くなる……───
泣きそうになった私は
そっと彼の肩にもたれかかって
それでも、そのまま………
手を握る力を少し強めた彼に
我慢できなくなった雫が一筋私の頬を滑って消えた
『……リョーマ……………ありがとう……────』
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