頂き物

□抉れる處
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ザクリザクリ…
「何で穴を掘るんですか?」
耳になじむ後輩の声が、ザクリザクリと掘り進める湿った土の音と共に聞こえてきた。
「何でって…」
聞かれたそれに答えようと考えながらも、綾部喜八郎はスコップで地面を掘る事をやめる事はしない。
別にやめてもいいのだが、何となく掘り進みたいのだ。この地面の先に続くであろう真っ暗な世界に光を入れる行為をなんと無く止められないのだ。
ザクリザクリと、スコップは湿った土を穿り返す。
「そんなに掘ってどうするんですか?」
再度聞こえてきた声は、少し呆れ気味だ。
声が反響して聞こえてまるで地に埋まっているかのような錯覚を覚えていた分、上を見上げた時に見えた顔が影になってよく見えない
ああ、そうか彼は地の上に居たのか。
「いつか地の底に着いたなら、地の獄へ行けるかもしれない」
「地獄に行きたいんですか?」
「そんなわけは無いだろう」
誰が喜んで地獄などに行きたいものか。
一つしか違わない彼が口にする無垢な質問に、逆光で見えない地上に居る彼の顔。
何もかもが、まるで自分と後輩との距離に思えて仕方がなく、喜八郎はまた地面を掘り返す。
「忍者なんて、所詮は落ちる所は一緒だよ」
地の上に居る心優しい彼も、きっとその内同じ地面の下に落ちるのだ。
「何ですか、結局地獄行きって言う話ですか?」
「違うよ」
それでも、上に居る純粋過ぎる彼が地に落ちるのを見るのは悲しく思うのだろう。
「もしも地の獄まで続く穴を掘れたら、皆そこから脱け出せるだろう」
きっと彼は優しくて強かで、でも人に甘い。強さ故の優しさではなく、優しさ故の強さしか持たない人間は真っ先に地面の下に行ってしまう。
彼がそうなるとは限らない。
「そうしたら、藤内は私を連れ出してくれるかい?」
自分自身がそうならないとも限らない。
「もう、何言ってるんですか?」
「何って、藤内が聞いたんだよ。穴を掘る理由」
ザクリザクリと掘り進める。
「…答えになってませんよ」
地の下の湿った土をスコップで穿り返しながら。
地面は密かに抉れていった。







end



「アナログ電子」のアサクラさんから強奪した相互SSです。無理矢理相互SSにしてもらいました。
もーもー悶えるしかない良い綾浦!!記念すべき初綾浦らしいです。
大っ好き!!!

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