企画2

□夏色少年
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※現パロ・年齢操作+3








はぁ、と吐かれた息は嫌になるほど生温くてジリジリと暑い大気に解けて呑まれていく。去年より気温が上昇したとニュースが伝えた通り増した暑さが風景を揺らがせた。
「兵太夫!」
額から首筋からぼたぼたとすごい勢いで汗が流れていって気持ちが悪い。制服の白いカッターの背中が汗でぐちゃぐちゃに濡れて今すぐ脱ぎたいくらい不快感を催している。
なのに目の前の僕に呼ばれた男は涼しげな顔で風にそよがれながら、面倒くさそうに僕を振り返って「なに?」と不機嫌そうに眉を寄せた。
「なにじゃない。今日は中、高等部合同委員会の日だから絶対参加って言われてただろ」
この小憎らしい兵太夫が来ていないからと中等部風紀委員長の浦風先輩が慌てふためいて僕に捜索を命令したのが数十分前。お陰で僕はこの暑いのに兵太夫のいそうな場所を汗だくになって走り回らされた。最後は僕を哀れんだ伊助が生物準備室に行ってみろと助言してくれたお陰で漸く発見に至ったのだが。
開け放された窓から吹き込む風が火照った頬を心地よく撫でていくため、少しずつクールダウンしてきた頭でちらりと腕時計を確認すると合同委員会開始の時間を五分も過ぎていて眩暈がした。兵太夫もポケットから携帯を取り出して背面ディスプレイで時間を確認してからニヤリと笑った。
「遅刻決定」
「………今からお前を連れて行けば+−=0」
汗をひとつもかいていないさらりとした腕を掴んで逃げられないように捕獲する。こいつが見つからなかったと言えば多少の遅刻ぐらい多めに見てもらえるはずだと、以前は出来もしなかった打算的な考えで自分を安心させた。こういうことを覚えなければいけなくしたのはやっぱり目の前の憎たらしい兵太夫である。
「どうせ遅刻なら涼んでいけば」
汗だくじゃん、と笑われて誰のせいだと思ったけれど、すごく魅力的な話だったから黙って頷いた。
風が汗を蒸発させて体温を奪っていくのが気持ちいい。片手を窓のサッシにかけて乗り出すように風を受けていたら、兵太夫の腕を捕まえていた手が引っ張られてふらりと体がよろける。ぽすんっと体が兵太夫の腕の中に収まった瞬間、素早く状況を把握した僕は抗うために思い切り両手を暴れさせたけれど虚しく壁を引っ掻いて終わった。
「離せよ、汗、つくから」
あまり逞しくない肩を叩いて目一杯顔を反らせるとそこを狙ったようにがら空きの首筋に顔が埋められて、垂れる汗をべろりと舐められる。
「あっ、やだ、汚い」
「しょっぱい」
白い顔が間近で赤い舌をちらつかせながら笑った。焼けていない肌によく映える赤に胸を高鳴らせてしまいながらぐっと俯くと、僅かだけ体が離されて二人の隙間を風が吹き抜けて肌がひんやりとする。
「少し焼けた?」
「………焼けたら悪いか」
兵太夫の倒錯的な白肌に気後れしながら俯いたまま返せば、密やかな笑い声のあとに「悪くない」と返ってきた。
「夏色で良いんじゃない?そそるし」
態とらしく潜められた声は風に舞い上げられて僕の鼓膜をサラサラと撫でていく。
「……委員会」
「あとちょっとだけ。伝七のシャツ乾くまで」
珍しく甘えた声が耳元に響く。この珍しさに甘んじて今日は絆されてやるか、と窓外に目を転じると夏空の強烈な青が目を染ませてくらりとまた眩暈がした。
このまま夏色に染んで溶けてしまえば楽だろうに。
思わず漏れた声に兵太夫が笑う。
汗が乾いてきたカッターシャツの背中が気持ち悪くて、早く乾いてしまえとため息をついた。



end





兵伝企画「大嫌いの裏側を覗いてみた」様に参加させていただきました。
広がれ兵伝の輪!

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