文章1

□ファ○゙リーズ七松家
1ページ/2ページ

D.a様のファ○゙リーズ七松家の設定をお借りしています。
















最近、家の中がおかしい。
みんなこそこそと何か隠しているようで、うちの家族はみんな嘘が下手だから聞けば焦った様子でなんでもないと繰り返すのだ。私がそれ以上追求しなければあからさまに安堵してみせる。
私なら上手く隠してみせる自信があるのに、と嘯けばそれを聞いた仙蔵が大笑いして「お前は嘘だけは巧いものなぁ!」と何か含みのある言葉で周囲に同意を求めた。
頷く周りに反論するのも面倒で枝豆を皮のままかじって冷たく冷えたビールで流し込む。場所は駅前の居酒屋。気の置けない仲間たちと仕事帰りに飲みに行くのが習慣で、家に晩飯はいらないと連絡したらにこやかな滝夜叉丸の声が「楽しんでいらしてください!」と元気に返しやがった。いつもはお小言を呟くくせに。
「でもさー、うちも最近おかしいんだ。みんな何かやってるみたいで、この前伏木蔵に聞いたらすごい勢いでみんなに口止めされてて聞けずじまい…」
「奇遇だな、うちもだ。作兵衛が箝口令を敷いてるみたいだが、おチビたちの動きでなんとなく俺は知ってるぞ」
温んだビールをちびちびと舐めている伊作に同意した留三郎はニヤニヤと嬉しそうに笑いながらお猪口を摘んで旨そうに熱燗を煽った。今日は冷えるから私も熱燗に切り替える為に手をあげると、仙蔵が「黒霧をロックで、あと軟骨追加」と声をかけて長次も「……梅酒ロック」とささやかに呟く。それらに頷きながら走ってきた若い女の子に注文を伝えると彼女は素早く書き取って笑顔で去った。金曜日の駅前居酒屋はとんでもなく混んでいて、きっと厨房は戦争なのだろうと思ったが情け容赦なく言い忘れた豚バラと豚足、山芋ステーキをまた別のバイトに伝えてやる。
注文を終えた私の横で長次が揚げ出し豆腐をつついていて、仙蔵がそれを横から綺麗な箸使いで切り分けて奪っていく。
「そういえば、長次のところも何か動きがあるんじゃないのか?なにせお前のとこは不破だからな」
抜かりあるまい、とまた揚げ出し豆腐に箸を伸ばす仙蔵に長次は小さく頷いて微かに微笑んだ。その様子から察するに、一様にみんなの家で起こっている隠し事は嬉しいことのようだ。長次が微笑む程嬉しいことに私は思い至らなくて仙蔵に水を向けると豆腐を咀嚼し終わった後グラスに残っていた焼酎を飲み干してからニヤリと笑む。
「うちの子たちが何もしないわけないだろう?バレバレなのに隠す様が可愛くてな」
「だからそれ何を隠してるの?」
私が枝豆にまた手を伸ばした時、最初に注文を取りに来た女の子が注文していた酒を持ってきて次々に空いてるスペースへ置いていく。それを受け取ってからもう一度仙蔵を見やると、彼は少し驚いたように肩を竦めて「お前らしい」と呆れたようにぼやいた。その意味がわからなくてもう一度問いを繰り返そうとしているのに仙蔵はさっさと視線を文次郎に転じて「お前のうちはどうなんだ」と私を無視する姿勢。
黙々とみんなが半端に残した摘みを片づけていた文次郎は面倒臭そうに「お前らと変わらん」とぼやいてハイボールの入ったグラスを傾けた。琥珀色がゆらゆらと揺れているのを目で追いながら、答えのわからない私は首を傾げるしかない。
答えがわかっているらしい長次をつついてみると、「日曜日を待て」としか答えてくれなくて解答をくれはしない。唇を尖らせてみてもそれは変わらず、恒例の飲み会が終了するまで私といさっくんだけが蚊帳の外だった。




*******




ベッドの上をごろりと寝返った時、滝夜叉丸の体にぶつからなかったせいで目が覚めた。のろのろと布団から這い出して枕元のデジタル時計で確認すると"6/19 SUN AM10:00"と表記されている。今日がみんなの言っていた件の日だと認識した後に、いつもより起床時間が遅いことに気付いた。大体休日でも9時には滝夜叉丸が起こしに来て、それをベッドに引きずり込んで抱き枕にして二度寝が通例なのに今日は一度も起こされていない。
寝癖のついた髪をかき乱しながらベッドから這い出し、滝夜叉丸がいつもサイドボードに用意してくれている私服に着替えた。脱いだパジャマは丸めると怒られるから広げたままベッドの上に投げ出しておく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ