室町

□進むことが淋しい日
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「お前等って何処まで進んでんの?」
三年長屋の一室で、ぐるりと車座になって何を話し出すのかと思いきや、三之助は一同を見渡して唐突な質問をしてきた。
「す、進んでるって……」
俺はどう答えて良いのかわからず言葉を濁し、俺の横では数馬が頬を赤らめて三之助から目をそらしている。その隣にいる孫兵は驚いているようだったが恥いるわけでもなくただ静かに発言主を見返していた。
「進んでるって、授業?」
孫兵と三之助に挟まれた藤内がズレた質問を返して、俺は心の底から左門の不在を安堵した。会計委員会が今活動していて本当によかった。ズレたのが一人なのと二人いるのではなかなか俺の心労が違う。
「授業なわけないだろ。藤内は綾部先輩と何処まで進んでるんだ?」
三之助が全く何にも包まずに超直球で藤内へと質問を投げ返す。案の定、今頃質問の意図を掴んだ藤内の顔は茹で蛸のようになって一気に静かになった。
「もう色の授業やってる四年相手なんだから、もう口吸いだけとかじゃないだろ」
どうなんだよ、と肘でつつかれて藤内の喉から変な呻き声が上がる。助けてやりたいが、船出した途端にこっちがやられそうな気配が漂っていて自然と俺の口も重くなった。泥の船とわかっていて漕ぎ出す馬鹿はいない。
「藤内は真面目なんだからそれ以上つつかないであげてよ」
………いた。俺の隣でまさかの数馬が発言してしまった。お前の漕ぎ出した泥船には漏れなく俺も乗船しているわけで、きっとそれわかってねぇよな。
「なら数馬と作は何処までいってんだ?」
「………………く、口吸い………をこの前作ちゃんに、され、た」
藤内を守るために数馬は我が身と俺を犠牲にしてしまった。真っ赤な顔で俺を見ないでほしい。この前の自分の行動を後悔しそうになるから。
「へー」
ニヤニヤと笑いながら三之助が俺を小突いたが無視をしてやる。これが今の俺にできる精一杯。向かいで藤内が感謝しているかと思いきや、なんか一人で衝撃を受けたような顔をしていて肩透かしを食らう。なんだよその顔。
「………俺、まだ、手つないだことしかない……」
「へぇ、意外」
口では驚いたように言ってるくせに、三之助の顔はニヤニヤと笑っているばかりで気色悪い。っていうか藤内達のが付き合いだしたの早かったし、あの手が早そうな綾部先輩が何もしてないってのが信じられない。いやいや、そういう趣向かもしれない。焦らしてんのか?そういう性技があるのはうっすら知ってるけどまさか、日常から始めてんのかこいつら!
「………ど、どんだけ大人なんだ、四年は………」
「作ちゃん、何妄想してるか知らないけどその妄想は有り得ないから」
頭を抱えた俺の頭上から数馬の冷静な声が降ってきて漸く頭が現実に向かってくる。
「いくら四年でもそれは有り得ないよな!」
「ほんと、何を想像したのさ」
呆れた目で俺を見る数馬の頬はもう赤みをなくしていていつも通りに戻っていた。なんだか俺だけ置いて行かれてしまったようで俺の頬はまた熱が上がっていく。
「お前らやっぱあんま進んでないんだな」
「でも孫兵のとこは五年なんだからそれこそ俺のとこより進んでるんじゃないの?」
少し拗ねたようなむくれた顔で藤内が孫兵の整った綺麗な顔を横目で見る。孫兵はそこで漸く照れたような優しい笑みを浮かべて曖昧に浅く頷いた。
「え!何処まで行ってるの!?」
進んでると自分で言ったくせに、泣きそうな顔で腕を掴む藤内に孫兵は困ったように眉を寄せたがその口元はいまだ微笑んだままでなんだか大人っぽい。
「ねえ、藤内。別に最後までの行為に至ることが重要なわけじゃないし、それがえらいわけでもないんだよ。僕はただ竹谷先輩が最後まで手を引っ張ってくれたからそこへ行ってしまったわけだし。数馬と作兵衛は二人で一緒に進んだ結果。綾部先輩は藤内が大切だからゆっくりと進みたいだけだよ」
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