妄想の滝 分離
□顔を見て話そうよ
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無理矢理入れた日曜日の部活。
あまりに突然すぎて午後から予定を入れている部員が大半で、歩は仕方なく10時から14時という時間で渋々我慢した。
予定だ?そんなだからオマエラ下手なんだろうがっ
実際はトーヤの誘いから逃げるために無理矢理部活を入れたのだから、単なる八つ当りでしかないのは歩も十分自覚はしている。
「〜チッ」
小さく舌打ちをすると、歩はロッカーを乱暴に開ける。
「んな不機嫌になんなって歩ちゃん」
「そうそう、仕方ないでしょうが」
話し掛けてくる二人を無視しながら携帯を見るとメールの着信が一件。
?!
「歩?」
覗き込んでくるシンジに焦って携帯を閉じる。
「?どうした?」
さらに覗き込んでくるチャーを押し退けて荷物を掴んで部室を跳びだす。
「歩!?」
『トーヤ君だよ〜、早く出てきてよ〜』
メールの内容を思い出して青くなる。
出てこいってどういう事だ!?
校門へ向かって大股で走っていく。
「ふっせセンセ〜〜!」
大きく手を振るトーヤに歩の足がぴたりと停まる。 ………あのヤロウ…
「あっゆみちゃ〜ん♪」
急に停まった歩にさらに叫ぶ。
「っっっっっ!!」 「布施歩ちゃ〜ん!!」
「う、うるさいっ!!」
走ってトーヤに近寄ると、両手で口を塞ぐ。
「ひゃっほへへきた♪(やっと出てきた♪)」
「ちょうどさっき始まったみたいだねぇ」
上映時間を見ながらトーヤが呟く。
チッ、始まっちまってんのかよ
映画は予告から見ないと気に入らない。
歩はチラチラとトーヤを伺う。
「布施センセ、時間有る?オレ予告見ないの気に入らないのよね」
少し顔を歪めてトーヤが言う。
「んぁ?あ、ああ、しかたねぇな」
顔が緩みそうになるのを押さえながら歩は言う。
「あ、マジ?良かった〜、なんかおごるよ〜」
「…別に、要らん」
「まあまあ、そう言わないで。お茶しよう、お茶〜♪」
歩が肩に担いでいた荷物を奪い取ると、出口へ向かう。
「お、おいっ」
「ほ〜ら、行くよ〜」
トーヤは映画館を後にすると、歩調をゆっくりにする。
「この先にね、五時くらいまでランチ食べさせてくれるとこ有るのよ。お腹空いちゃってさ、付き合ってよ」
楽しそうに笑うトーヤに複雑な心境になる。
「……」
「あ、此処、此処♪」 店に入ると、迷いもせずに一番奥の壁ぎわの席に座る。
「このセットがオススメ〜♪」
そう言うと、歩の意見も聞かずに二人分のオーダーをすませる。
〜〜っっとに、こいつだけは……
あまりのマイペースさに二の句が付けられない。
「オレね、布施センセとこうしてデートしてみたかったんだよね〜」
水で喉を潤しながらトーヤが言う。
「ほら、電話もメールも出来るけど、やっぱ顔見て話したいっしょ」
好きな人ならなおさら、ね
「失礼します」
オーダーが届く。トーヤはニコニコと歩を眺めた。「食べて食べて♪」
届いたのは大きなオムライス。
「そのケチャップが特製でね、下手なソース使うより断然美味しいのよ!」
……
目の前にあるのはケチャップと、オムライス…
おいおい、ガキかよ…
「まあまあ、騙されたと思ってさ♪」
仕方なしにケチャップを無造作にかけようとするとストップをかけられる。
「〜〜何なんだキサマは」「え〜、やっぱりケチャップと云えばハートマークでしょ♪」
「は?!」
「どっちがうまく出来るか勝負ね♪」
しょ、勝負って…
「♪♪」
鼻歌を歌いながら書き始めるトーヤを盗み見る。
……仕方ない
半分呆れながら歩も書き始めるが、なかなか上手くいかない。
…っくそ
知らず真剣になっていく歩にトーヤは笑顔になる。「出来たぞ、勝負だ!」
満面の笑みで歩が顔を上げる。
「はいはい」
両方を見比べると、どっちもどっちの微妙な出来である。
「あちゃ〜、微妙、ね」
「何処がだっ!オレのほうが絶対にうまい!!」
「あ〜、はいはい」
そう言うと、トーヤはオムライスを食べ始める。
「あ、キサマ、それはオレのっ!!」
「まあまあ、勝者にはトーヤ君直筆のハートマークをあげるって事で」
「はぁ?!」
なおも抗議しようと口を開ける歩に、目の前のオムライスを掬って口に入れてやる。
「?!!」
「ね?美味いっしょ?」
う、美味い…
想像以上の味に歩は目を丸くする。
「食わなきゃ損だよ」
歩はジロリとトーヤを睨むと、無造作にハートを潰してからスプーンで掬った。
「ひっで〜、せっかく頑張ったのに〜」
「うるさい、どうせ崩れるだろうがっ」