妄想の滝〜天童寺side〜

□線香花火
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 いつもと変わらない一日の終わりの風呂上がり。談話室での談笑時に聖人の携帯が鳴った。
「お、誰からよ?」
 鎌倉の声に聖人はメールを確認する。
 和彦?
 メールを開いて見えた画像に聖人は呟いた。
「花火だ」
「花火!?どれどれ」
 興味津々に覗き込まれて苦笑しながら携帯を差し出した。
「お、キレイじゃん」
「あ、マジでか」
 バスケ三昧で花火に行く暇もなかった面々には写メールでも十分騒げるようである。
 花火ね
 騒ぎ続ける面々に聖人は小さく笑った。



「花火がどうとか騒いでたな」
「え?あ、ああ、うん」
 部屋に戻って彩の台詞に聖人は苦笑を漏らす。
「…行けなかったからな」
「え?」
 花火のことか。
「まあ、仕方ないさ」
 見たくなかったわけではないが、それは皆同じである。
「また来年があるさ」
 フワリと笑顔を浮かべる聖人に彩はゆっくりと近寄る。
 少し見上げるような聖人の頬に右手を伸ばし、そっと顔を近付ける。
 そっと目蓋を閉じようとした時、急に屋外が騒がしくなって二人はピタリと動きを止める。
 ?
「それオレ!」
「こっちで良いだろ〜」
「テメ、誰が買ってきたと思ってんだよ!!」
「はいはいはいはい、鎌倉先生でございますよ〜」
 外から聞こえてくる声に彩は眉間に皺を寄せる。
「…あ、いつ」
「まあまあ」
 苦笑しながら聖人は窓辺から顔を出すと下の様子を伺う。
 あいつら、こんな夜中に何やってんだか。
 聖人が一言声を掛けようとすると、気付いた人間が手を振ってくる。
「ノボリ〜!」
「二人とも下りてこいよっ!」
 呼び声に聖人は彩をふり仰ぎ、小さく笑った。


 渋々といった様子で歩く彩を諭しながら、聖人もゆっくりとした足取りで皆の輪に入っていく。
「お、来たか!」
 ブンブンと花火を振り回す鎌倉に聖人は苦笑を零す。
「買ってきたのか?」
「そ、やっぱ夏なのに花火なかったのは悔しいからな」
 ニッカリと笑う。
「…付き合わされるこっちの身にもなれ」
 小さく溜め息を零す武蔵に鎌倉はさも心外だと言うかのように唾を飛ばす。
「オマエも楽しんでるだろうがよっ!」
 そんな二人を眺めていると、横から花火が一本差し出される。
「無くなるぜ」
 手を伸ばして受け取ると、大沢は大きな溜め息を吐く。
「あーあ、ったくヤロウばっかで花火ってのも不毛だよな」
「そう言うなよ」
「ま、そん中に交ざってるオレもオレだけどな」
「はははっ」


 さすがに打ち上げ花火は近隣への迷惑を考えてか無かったようで、三十分もすると手持ち花火も底を突いてくる。
「誰かこれやるか〜」
 ブンブンと振られている線香花火。
 やはり線香花火は最後に束になって残ってしまうものである。
「オレは結構好きだけどな」
 聖人が手を伸ばすと武蔵も苦笑を零しながら手を伸ばす。
「そんなかんじだな」
 そんな感じ?そうか?
「ノボリに似合ってる」
 ボソリと声が聞こえ、彩が手を伸ばしてくる。
「似合ってる?」
「ああ」
 複雑な顔をする聖人に皆が苦笑を零しながら花火に火を点ける。
 聖人も複雑な面持ちで火を点けると、しゃがみ込む。
 仄かな光に夏の終わりを感じた。
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