妄想の滝〜天童寺side〜
□たまにはこんな日
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騒つく教室の中、カバンに入れた一枚の紙は重く感じるが各々浮き足立っている。
「えっ、マジで!?めっっずらしー!!」
クラスメイトの声に聖人は苦笑を零す。
勝つ事を要求されるが故に年間でも部活が休みな日など両手で十分に事足りる生活なのは誰もが知っている。
「タイミング、かな。まあ、自主練自由だし。明日から練習漬けだしね」
「たまにはオレラにも付き合えよ!」
「え?」
自主練自由。当然聖人は休息よりそちらを選ぶつもりだったのは言うまでもない。
「オレラと違ってノボリは真面目だからな。たまの休みくらいはオレラにも付き合えっての」
なおも詰め寄る相手に聖人が頷きかけると、机に置いていたカバンが浮かび上がる。
「え?彩!?」
そのまま無言で教室から立ち去る彩に、聖人はクラスメイトに片手で謝るとその後ろ姿を追い掛けていった。
何処へ行くんだ?
尋ねても無言のまま一切口を開かなかった彩に聖人は小さな溜め息を吐く。
まあ、良いさ。たまにはこういうのも。
え、此処は…
電車とバスを乗り継ぐこと数時間。
目の前の建物を見上げて聖人は目を見張る。
天文、台?此処に来たかったのか…
一人先に進む大きな背中を見つめて小さく笑う。
「あ、隕石…」
十五センチにも満たない石を手にして聖人は目を丸くする。
重っ…
ダンベルほどの重みはゆうに有る石に食い入るように目をやると、クスリと笑った気配を感じて後ろを振り向く。
目が合うと彩は照れ隠しをするかのように腕時計に目をやる。
「時間だ」
「へ?」
「この時期夜空を飾る星座は―――」
落ち着いたナレーションを聞きながら人工的に作られた星空を見上げる。
何年ぶりかな、プラネタリウムなんて…
夜空に浮かぶ星をゆっくりと眺める時間すらあまり取れはしない。
そっと横目で同じように星を見上げる彩を見る。
小さく笑うと彩の膝に軽く手を置き呟く。
ありがとう……
驚いたように見返してくる彩の唇に軽くキスを落とすと、星を見上げて小さく微笑んだ。