妄想の滝〜天童寺side〜
□燻り
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あ…一年。
自動販売機の前で聖人はバスケ部一年の四人を見かけて足を停めた。
「やっぱりさぁ、」
「な、残念。だよな」
「つかがっかり?」
談話室の隅からぼそぼそと聞こえてくる声に、聖人は目を向けた。
「だってなぁ…」
気付いてないのか。
聖人は小さく笑う。
別に気配を消しているわけではないが話に夢中で気付かないようだ。
「やっぱりさ、」
「ああ、迫力とか、な」
「見たかったよなぁ」
?
語尾の不穏さに眉を潜める。
何?
ナニがと聞こえたわけではないが妙に癇に触る。
「オレさ、憧れてたんだよな」
「オレも…」
アコガレテタ?
過去形なのが気になる。
ダレに?
聞かなくても分かる。
カレに、だろう。
「やっぱさ、部長と釣り合うのは…」
やっぱり、それか。
本人がすっきりさっぱり吹っ切れていたとしても周りの評価は変わらない。
沢登聖人には哀川和彦。
いや、哀川和彦には沢登聖人。だろうか。
どちらにしろ今の自分達にとっては迷惑以外のナニモノでもない。
「だってアレだしな」
「ああ、そりゃ如月先輩も凄いとは思うけど」
「天才、だからな」
胸の奥の小さな燻りに火が点くのを聖人は感じた。
………
「ノボリ?」
背後から聞こえた声に、四人が振り向く。
「…鎌倉か」
一年から目を反らさず、声だけはいつものトーンで答える。
「遅いって彩がイライラしてたぞ。売り切れか?」
「…いや」
まさか
聞かれた?
マジ、で?
やばいって――
四人の顔にありありと感情が浮かび上がる。
聞かれたくない会話なら、人の耳に入るような所で話すな。である。
「クソでもしてたってか?」
ニヤニヤ笑いの鎌倉の下卑たセリフに突っ込む気すら、出ない。
「まあ、そんなとこだ」
聞かれて、ない?
気にしすぎ?
そんな偶然、無いよな。
良かった。
面々の表情に零れるが、聖人は目線を離さない。
離そうとしない。
その視線に四人の顔が一気に青冷める。
「イマ、来たところだから」
いつもの笑顔も、シニカルな笑顔すらもでない。
お?これは…
さすがの鎌倉とて三年の付き合いの中でそれ位の空気くらいは読める。
こいつら、地雷を踏みやがった?
聖人の地雷。
分かっているから敢えて口には出さない。
「ほら、彩が切れちまう前に戻ろうぜ」
目当ての物を買って半ば無理矢理聖人の背を押す。
オレに気を遣わせるなよ…
目で語る。
「――ああ」
もう一度チラリと一瞥を投げ付けると従って一年へ背を向けた。