DWNリーマンパロ
□ナイトメアプリズナー・後
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PM16:30
ライト&コサックカンパニー部長室
「あとはクイック君がフラッシュ君を連れて来るのを待つだけです。
全く……単純なロボットで助かりましたよ彼は」
やれやれ、とでも言う風に両手を上げるとエレキは、目の前の部長席に座っているロボットに向けて言った。
そのロボットは、豪華な革製の椅子を窓に向け、高層ビルから下界を見下ろしている。
そのため、彼の表情はエレキにはうかがい知れない。
恐らくは、相変わらず無表情なのだろうとエレキは思った。
「……そうか」
しばしの沈黙を破って、彼が言葉を発する。
そして、椅子を緩慢な動きでくるりと回転させ、エレキのほうを向いた。
「どうです?ブルース部長?わたしもなかなかやるでしょう?」
振り向いた瞬間に、彼の少し茶色がかった短い髪が揺れた。
口を真一文に結び、かけているサングラスのせいで彼がどのような感情を持っているのか微塵もわからない。
一分の隙もなく高級そうな紺色のスーツを着こなしている様は、嫌みすら感じさせず、むしろ自然に溶け込んでいる。
挑発する様なエレキの言い草に、彼――ブルースは何も答えなかった。
ただ、何かを思案するように下を向いている。
「……ライトとロックには言うな。」
静かに、ブルースは言った。
「手を汚すのは、俺だけでいい。」
何処か寂しそうに言うブルースを見ながら、「実際手を汚しているのはわたしなんですけどねぇ」と、エレキは心中でつぶやく。
「確かに……ライト博士とロック君は正義感が強い。このことがバレれば……非難されるでしょうね」
「だが、正義だけではどうにもならん。」
ブルースの言葉を、最もだとエレキは思った。
あの二人は、真っ直ぐ過ぎる。
あの真っ直ぐさは、競争社会では徒になるだけだ。
だから、彼……ブルースが秘密裏に、汚れ役を買って出ている訳だ。
「あいつらには汚いことをしてほしくない」
冷たい表情とは裏腹に、彼は、父親思いであり弟思いだ。
エレキはそんなブルースが嫌いではなかった。
友人には欲しくないが、上司としては尊敬出来る。
「まあ、見ていて下さい。この会社のため……わたしは命さえも投げ出す覚悟ですよ」
わざと、大袈裟に言ってやる。
冗談だと知ってか知らずか、
「俺もだよ」
ブルースは静かに言った。
エレキは部長室の扉を静かに閉めると、歩を進めた。カツカツと、自信に満ちた足音が、静かな廊下に響き渡る。
……我慢しようにも、笑みが止まらない。
―――わたしの勝ちです。
クイックはすぐにでもフラッシュを連れてここに来るだろう。
彼をスクラップ寸前にしてでも……
フラッシュは恐らく、こちらの会社に付くのを拒むだろうが、その時はその時で、電子頭脳を少しいじって、従順にしてやればいい。
……勝利だ。圧倒的勝利。
クイックがこちら側につけば、恐らくはメタルもこちらに来ざるを得ない。
彼はクイックに異常に執着している……
……いや、もはやあれは溺れていると言っても過言ではないかもしれない。
クイックの居ないワイリーカンパニーに、メタルが居続ける意味はない。
彼は、クイックがいる限り必ずこちら側に付くと断定出来る。
「簡単なゲームだった」
エレキは肩を竦めながら、そう漏らした。
「エレキ!」
ふと、後方から声がした。
それとともにパタパタと走ってくる音。
「ファイヤー」
「相変わらずニヤニヤしてんな。ゲームとやらは楽しいか?」
「ああ、ゲームクリアです。わたしの更なる昇進も確定しましたし。」
ファイヤーは「そうか!」と言うと、まるで自分のことのように嬉しそうに笑った。
「じゃあ祝杯をあげねぇとな!今夜どうだ!?」
「少し遅くなるかもしれませんが……それでよろしければ」
「いくらでも待つさ!そのかわり、おごれ!俺今月ピンチなんだよ!なっ!」
ファイヤーはエレキの肩をバンバンと殴るように叩いた。
「痛いです」と言おうとしたが、あまりにも彼が嬉しそうだったため、エレキは何も言わずに微笑みを浮かべる。
「当たり前ですファイヤー。」
「じゃあ後でな!」
快活な笑いを残して去って行くファイヤーの姿を、エレキは嬉しそうに見つめていた。