DWNリーマンパロ
□ナイトメアプリズナー・前
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20××年
5月4日
AM 11:35
ドクターワイリーカンパニー、情報処理課。
「皆何やってんの?」
「なにやってるのー?」
不要物件の破壊活動から帰還してきた、クラッシュ(今はハンドアームに付け替えている様だ)とヒートは、オフィスのただならぬ雰囲気を感じながらも、暢気そうな声を上げた。
他のメンバーが、あのいつもやる気がないバブルでさえも、パソコンのディスプレイを真剣に眺めながら、何らかの作業を進めている。
カチカチと規則的なキーボードを打つ音だけが、静まり返ったオフィスに児玉している。
……こんなことは珍しい。
だいたい、いつも真面目に作業しているのはエアーとクイックくらいのものだ。
フラッシュも仕事をすることはするのだが、直ぐに、めんどくせぇとか言って煙草を吸いはじめる。
メタルは偉そうに課長席にふんぞり返っているし、バブルはボーッとしていることが多い。
……どうしたと言うのだろうか。
クラッシュとヒートが顔を見合わせて、首を傾げていると
「おかえり〜」
背後から声がした。
「ウッド!ただいま。なぁ何でこんな静まってんの?」
「うーんとね……なんか急な仕事が入って皆でハッキング作業してるんだってさ。僕はよくわかんないけど」
クラッシュの問いに、ウッドは苦笑いしながら答えた。
「で、僕はコーヒーを入れにいってた。」
ウッドの手元を見ると、彼は人数分のコーヒーがのった盆を持っていた。
クラッシュは、そこからフラッシュ専用のコーヒーカップだけを取ると、彼のもとに歩を進める。
「フラッシュ。はい、コーヒーだって」
彼の横に立ち、デスクの上にコーヒーを静かに置く。
おぅと返事は返ってくるが、相変わらずフラッシュの視覚サーチはディスプレイだけを見ている。
ディスプレイにはクラッシュには理解不能なアルファベットやら記号やら数字やらがひたすら並んでいた。
「何やってんの」
「ハッキング」
クラッシュの問いに、フラッシュは素早く答えた。
「それはウッドから聞いた。なんでそんなに真剣なの?」
「急いでるからに決まってんだろ。ちょっと話しかけんのやめろ。」
「ねー何で?」
「…………うっせえなあ…………」
しつこいクラッシュに溜息をつくと、やっとフラッシュは、顔をクラッシュの方へと動かした。
彼は眼鏡を、右手で上げる仕種をすると
「今、ライト&コサックカンパニーのコンピュータにハッキングしてんだよ!俺らはサブコンピュータにパソコン通してハッキング。
んでメタル課長とエアー係長が、メインシステムに回線通じてデジタルリンク。」
そういいながら、メタル達を指差した。
メタルを見れば、ディスプレイに右手を付け、視覚サーチを閉じている。
メインシステムに意識を飛ばし、デジタルの海に潜っている様である。
エアーは、小型マイクを通して何やら指示している。デジタルダイブしているメタルのサポートをしているらしい。
「ふ〜ん……」
フラッシュの話によれば、両カンパニーでは、同一物件の買収を進めていた。
その物件は、光子力エネルギー発電施設。
ワイリーカンパニーとしてはそれを使い、更なるロボット社会の発展を、
ライト&コサックカンパニーとしては海近くに作られたその物件を潰し緑化促進の要に……
ということであった。
取引先によれば「より多くの金額をだした方に物件を譲る」
ワイリーカンパニーとしては、その物件は是が否でも手にいれたい。しかし、金額を多く出し過ぎるのも嫌だ。
「……で、相手先のコンピュータにハッキングして、相手の今年度予算、来年度予算案なんかを盗めって上役から言われてんだよ。」
コンピュータを駆使してのハッキング活動……
それが、この情報処理課設置の真の目的である。
「よく、わかんないや」
クラッシュは首を傾げながら言った。
彼はコンピュータには詳しくない。この課には居るものの、主に破壊活動等でヒートと外に出ていることが多い。
「なんでここにいんだよテメェは……破壊活動課とか作ってそっちにいきやがれ」
「えーヤダ。フラッシュと一緒がいいよ。」
「……はいはい……」
フラッシュは、照れ隠しなのかクラッシュから顔を反らすと、再度パソコンに向かった。