DWNリーマンパロ

□ナイトメアプリズナー・前
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AM 11:48

ライト&コサックカンパニー、メインコンピュータ、デジタル空間外殻部



メタルは、意識だけをコンピュータ内に飛ばし、0と1が広がるデジタルの海を漂っていた。

オフィスでは背広着用が義務づけられているが、デジタル世界ではそんなもの不要。
もともとこの衣服と言うものはロボットにとって窮屈このうえない。
ならば、鋼鉄製の装甲のほうがずっといい。
そう思い、メタルは格好を戦闘用装甲にシフトチェンジした。
背広が一瞬光を放ち、分解され粒子の様に細かくなる。一瞬でそれは、赤い、装甲として構築された。

「これもいらんな。」

メタルは眼鏡を外すとデジタルの海に放り投げた。
それは、きらりと光を放ち、粒子となって消えうせる。
人間のまね事をしてかけていただけだ。
あれがあるだけで、真面目に見える。

「マスク」

メタルは言うと、手をかざした。
何もない空間からメタル愛用の赤いマスクが現れる。それを口元を隠すようにはめると、メタルは再び歩きだす。

いや、歩くというよりは、水のなかを浮ながら進んでいる、と言うべきか。
自分は、水中に適用するようには出来て居ないため、よくわからないが、恐らく水に浮く、という感覚はこのようなことを言うのだろう。

普段歩くように、ではなくフワフワと浮くように、舞うように、メタルは目的のものを捜し水を掻くように進む。

「エアー、入口は見つかったか?」

インカムマイクに向かってメタルは問う。

『今捜している最中だ……流石に……メインコンピュータだけあるな……巧妙に隠してあって……ん……これは。』

「なにかあったのか?」

『見つけた!データの切れ目……北に26、西に30』

メタルは、ニヤリと笑うと指定された場所へと急いだ。

―――なんとも簡単なものだ。

こうもやすやすとメインコンピュータに入り込むことが出来るとは。
こうやって、ライバル会社のコンピュータに違法侵入したのは一度や二度のことではない。

―――セキュリティが甘すぎる。

プロテクトをかけてはいるのだろうが、ハッキングやデジタルリンクのプロであるメタルから見れば、まるで子供が作った脆い砂の城と同等だ。
触れれば、すぐ壊れて行く。

指定方向に行けば、無限に続く0と1の隙間に、かすかだが、小さな黒い穴が開いていた。
それを触ろうとすると、水に指を入れた時の様に、波紋が広がる。
一瞬0と1が奇妙な形に歪み、段々に周りに広がって行く。

「メインコンピュータ内部へ侵入を開始する。」

メタルは言うと、波紋が広がる中心部にダイブするように、身を投げた。

「……!」

落ちていく。
底が見えない深い空間。
大企業のメインコンピュータだけあって相当のデータが保管されているらしい。
周りの風景は、全てデータの羅列。
あとはここから目的のデータを盗み取ればいいだけだ。

「簡単な仕事だったな。」

メタルは言うと、意識を集中して更にメインコンピュータにシンクロするため視覚サーチを閉じた……

瞬間。

「ッ!??」

身体に、稲妻が走るような感覚があった。
それとともに電子頭脳を直接何かで殴られたような鈍痛。

シンクロ出来ない。
いや、むしろ何かが自分のなかに侵入して、電子頭脳を食い荒らそうとしている?

「……しまっ……エアー!エアー!?聞こえるか!」

電子頭脳の痛みと、ゆるゆると落下してゆく感覚の中
珍しく、焦ったような声でメタルはインカムマイクに向かって叫んだ。

『ざざ……ざ……』

返事はない。
代わりに聞こえてくるのは、砂嵐のような不快な音。通信が出来ない!?

「罠…………!!」

気付いた時にはもう、遅い。
メタルが視覚サーチを開けると、無数の0と1が円を描き、メタルの周りをぐるぐると回っていた。
ある物は凄まじい速さで、ある物はゆっくりと、メタルを束縛するように。
それはまるで、数字の牢獄。

―――閉じ込められた!?

「初めまして。DWN009情報処理課課長メタルマン」

男の、いやに気障ったらしい声が、デジタル空間に響いた。
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