DWNリーマンパロ

□ナイトメアプリズナー・前
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「……誰だ」

メタルは、至極不愉快そうに声の方向を睨んだ。

数字の牢獄の隙間から、何者かの姿が見て取れる。

「そんな恐ろしい顔をしないで下さいよ。わたしはDRN008、メインシステム管理責任者に今年四月から就任しましたエレキマン、と言うものです。
以後、お見知り置きを。」

そう言ったのは、白く気障ったらしいスーツに身を包む優男。
折角の端正な顔立ちを隠すようにして、稲妻を象った奇妙なアイマスクを付けている。
アイマスクから垣間見える、紺碧の瞳が、面白そうにメタルを見ていた。

「……」

こいつとは反りが合わなさそうだと、メタルは思った。
全身から自信が満ち溢れ、人を見下すこの態度……まるで自分を見ているようだ。
だからこそ、苛々する。

「……罠か。」

抑揚のない声でメタルは言った。

「ええ。わたしの作ったプログラム、ナイトメアの中に貴方は閉じ込められた訳です。」

「何度かここには出入りしたこともあるのだがな?」

「前任者が無能だっただけでしょう?まあ、そのお陰で、貴方は深く考えもせずここにおいで下さった。
プロテクトならもっと頑丈かつ完璧なものを作れたのです。
ですがそれをしなかったのは」

エレキは、ニヤリと口角を上げて笑った。

「貴方をおびき寄せるため。」

「…………」

確かに、プロテクトが甘すぎた。
何度も侵入していて油断していたのもある。
明らかに自分の過失だと、メタルは今更ながら思った。

「貴方もつまらないロボットですねぇ……もう少し、怯えた顔等して頂くとわたしも嬉しいんですが」

「……無理だな。」

顔色ひとつ変えないメタルに、エレキは溜息をつきながら言った。
そんな彼を軽蔑するかのように、メタルは睨む。

「……ここに来たのがクイック君なら……さぞかし楽しい反応をしてくれたのでしょうが……反応がいちいち可愛いですもんねぇ彼は。」

「!!!」

何を言われてもポーカーフェイスだったメタルが、クイックの名前を出された瞬間、目を見開く。
彼は数字の牢獄に、拳をたたき付け

「貴様、何故クイックを知ってる!??」

叫んだ。
相手方が自分を知っているのはわかる。まがりなりにも自分は管理職だ。
だが、何故たいした地位もないクイックを知っている?そして、

―――反応の仕方が可愛い?!

それは、クイックと情事をかわしている自分しかわからないはずだ。
彼はプライドが高い故か、自分以外の前では、至極冷静に振る舞っているのが常だった。

「何故だ!答えろ!」

我を忘れて叫ぶメタルを見て、エレキはニヤリと笑う。

「ハッキングですよ。」

「ハッキング!?馬鹿な!常に俺が監視していた!ハッキング出来る訳が……」

メタルは一見、オフィスで何もせず課長席に座っているように見えるが、それは違う。
彼は常に、全神経回路をパソコンやシステムと共有させ、外部からの侵入を監視していた。
侵入者があれば容赦無く排除する。

それは予想以上に神経を擦り減らす仕事だった。

「出来る訳はない!」

「出来るんですよ。貴方がクイック君に執着してる時だけは」

「…………な!?」

「貴方の監視が緩む時間があるんです。特に、夜。
貴方の全神経がクイック君に行っている瞬間が。」

エレキの口元が、月型に歪んだ。

「…………!!」

メタルの驚愕した顔を面白そうに見ると、エレキは続ける。

「おわかりですかね?貴方の全神経がクイック君に注がれている時、つまりは…………」

「黙れ!!!」

メタルは叫んだ。
……クイックとの情事のことを言っているのであろう。
確かに、その時ばかりは監視を自分自身で行うのを怠り、自分自身が作ったコンピュータのセキュリティシステムに任せていた。
……しかしそのシステムも完璧なはずだったのに。
それすらも壊し、自分に悟られず侵入したこの男は……

―――俺よりも余程コンピュータに精通している……
フラッシュと同等?いや、それ以上?

「随分と悪趣味だな。吐き気がする。」

メタルの言葉に

「貴方も似たようなものでは?」

エレキは涼しげに言い放った。
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