DWNリーマンパロ

□ナイトメアプリズナー・後
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PM16:40

ワイリーカンパニー廊下


「フラッシュ……俺と共に来い。拒むなら、お前のコアと電子頭脳以外を破壊してでもつれていく。」

……こいつは本気だ。
本気で、壊すつもりだ。
それは何より、クイックの見開かれた瞳が語っていた。
何の迷いもない、その碧い瞳が。

壁を背に倒れた自分の上に馬乗りになっているクイックを見て、フラッシュの全神経器官が警鐘を鳴らしている。
背中の感覚センサーに、ぞわりと冷たい何かが走った。

―――あの時、エレキと二人きりにするべきではなかった

フラッシュは、今更ながら後悔する。
だが、今後悔したところで、この危険な状況は変わらない。

「クイック……もう少し、待て。必ずメタルは助ける。」

フラッシュは、なるべく相手を刺激しないよう、冷静に努めて言った。

「もう少し……?」

不機嫌そうに、クイックの眉間にしわが寄る。

―――何故お前はそんなに冷静でいられるんだ?

フラッシュの冷静な顔が、クイックには苛立たしく感じられた。

「俺はウイルスに侵されてるメタルを見た……
苦しんでた……苦しんでたんだ!!!
あのメタルが!!嫌だ……俺は……メタルがいなくなるのは嫌だ!」

―――エレキはここまで計算してたのか……!

メタルがどのような状況だったかフラッシュにはわからない。
だが、クイックの狼狽具合からすれば……メタルの状況は相当酷いものだったのだろう。

エレキは、こうなることを見越して、クイックにメタルを見せた。

「来るのか?それともここで壊されるのか?返事をしろフラッシュ!」

「……ッ!!」

クイックの両手が、フラッシュの肩を、強く壁に押し付けた。
スーツの中にある、金属で出来た身体が壁にぶつかり、ごり、と音をたてる。
痛覚センサーが感知した痛みに、フラッシュの顔が歪んだ。
彼の眼鏡が、渇いた音を立て床に落ちる。

「こうしてる間にもメタルは苦しんでいる!」

苦しげに言うクイックの瞳から、一筋の洗浄液が流れた。
感情が高ぶりすぎて、水晶体の保潤システムにエラーが起きたのだろうが、それはまるで、涙のようで。

壊されたらどうにもならない。
フラッシュは勘弁したように溜息をつく。

「わかった……一緒に行ってや……」

『そっから離れろ早漏野郎』

フラッシュの言葉が言い終わらぬうちに後方から、重なり合った声が響いた。

フラッシュは目を見開く。クイックが瞳孔の開ききった瞳を、微かに横に泳がせた。

……なんと言うナイスタイミング。

「フラッシュに触んじゃねえよ……糞クイック。」

「フラッシュ先輩にセクハラしないでもらえます?」

いつもは、邪険にしているその二人が、まるで救世主の様にフラッシュには思えた。

凄まじい程の、怒りのオーラを纏わせ、異様な程に赤く変色した瞳をギラギラとたぎらせた、クラッシュとスネークが、クイックの後ろに立っていた。

クラッシュが、ハンドアームの拳をクイックに向けて突き付けている。
スネークは今にも蹴らんばかりにその脚部を突き上げていた。

「…………」

クイックは、フラッシュの肩を強く押したまま、後ろを振り向いた。

「……邪魔するならお前らも壊す」

不気味な程静かに、低い声で言うと、クイックの姿が一瞬にしてその場から消えた。

『!!』

背後に凄まじい殺気。
クラッシュとスネークは舌打ちすると、素早い動きで跳躍する。爪先に、鋭い風圧を感じた。

クイックは手刀を放っただけだったのだが、凄まじい速さで放たれるそれの切れ味は、刃物さえも凌駕するであろう。

「うおっ!?あぶねぇっ!?」

放たれた風圧が、フラッシュのもたれ掛かっていた壁に激突する。
それは、フラッシュの頭すれすれの壁にぶつかり、コンクリートの白壁にはぽっかりと穴が開いていた。

「……あっちも本気じゃん……おもしれぇ……何で俺ドリルアームにしてこなかったんだろ。」

たん、と地に足をつけながらクラッシュが言った。
顔は、実に楽しげに笑っている。

「フラッシュ先輩……!」

スネークがフラッシュを見た。
そして、彼は自分自身の右手を、ちょいちょい、と指差す。

―――タイムストッパーのことを言ってるのか?

フラッシュは苦笑いすると首を横に振った。
……今、タイムストッパーは装着して居ない。

「……はー……クラッシュ先輩。俺が動き止めるんで、機能停止させちゃってください」

スネークは溜息をつきつつ、未だ殺気を放ち続けるクイックを見据えながら、フラッシュに言った。

「オッケー!」

赤に支配された瞳をたぎらせ、クラッシュは歌うように言う。

「なんでそんなに楽しそうなんスか……」

呆れたように言うスネークに

「だって壊すの好きだもん」

クラッシュは、目が据わったまま、口調だけは無邪気に言った。
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