ロックマン小説
□学パロ
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●拍手お礼短文
鋼速で学校パロ
鋼……保健医
速……生徒(陸上部エース)
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……風の様だと
至極、月並みな言葉ではあるが、
トラックを疾走するクイックを、保健室の窓から眺めるメタルは思った。
開け放たれた窓から入り込む少し冷たい春の風が、メタルの白衣を揺らす。
あの脚力から生み出される瞬発力とスピードが、まるで彼を、爽やかに草原を揺らしながら吹く若い風の様に見せる。
……全く、いつの間にこんな詩的な思考を持つようになったのやら、とメタルは心中でうんざりした。
部活の時間になれば、保健室からは、クイックが所属する陸上部の練習風景を眺めることが出来る。
メタルはこの時間が好きだった。
あの、すらりとした脚。
走り終わった後に一瞬見える満足した笑顔。
爽やかに飛び散る汗。
全てを、瞳に焼き付けるように眺めてるのが日課だった。
(この時間に、職員会議があったり、誰かが保健室に訪れたりすると急に不機嫌になるのはそれを邪魔されるからだ。)
「あ……」
思わず、声を上げる。
メタルはクイックを見つめながら立ち上がった。
「転んだ…………」
さあ、今から走り出そうと、大地を蹴った瞬間に、
足元の石にでも躓いたのか、クイックは派手に転倒した。
受け身をとったおかげでたいした怪我は負わなかったようで。
彼はすぐさま起き上がり、悔しそうな表情を浮かべている。
右膝の、破れた人工皮膚から、錆色のオイルが滴り落ちているのが遠目でも見て取れた。
「…………」
きっと、ここに来るだろう。
メタルは微かに笑うと、無言で立ち上がった。
可愛い生徒の、大切な脚を、直してやらねばならない。
「……転んだ。」
不機嫌そうな声とともに、保健室の扉が開いた。
「ああ、見ていた。こっちに座れ……消毒するから。」
メタルが言うと、クイックは見られていたことに対しての羞恥心からなのか、顔を微かに赤らめると、何も言わずにメタルの真向かいの椅子に黙って腰掛けた。
この脚に、遠慮なく触れるのは保健医の特権だ。
彼の脚に、消毒液をつけてやれば、しみたのか「ん……」と小さく呻くと、身じろいだ。
「痛いか?」
「……別に。それより、」
クイックは、赤みがさした頬を悟られたくなかったのか、下を向いたまま小さく呟く。
「ん?」
「いつまで触ってる……撫で回すな気持ちが悪い。」
「……ああ、すまん」
無意識的だった。
どうも無意識的に、自分はクイックの脚を撫でていたらしい。
すらりとした、この若い脚を見れば、撫でたくなるのも当然だろうと心中で言い訳する。
クイックの顔を見れば、非難めいた眼差しをこちらに向けていた。
相変わらず頬は赤らめたままに睨んでくる生徒を、メタルは苦笑いしながら眺めた。
「悪かった」
そうは言うものの、別段悪びれていない口調と笑顔で言うこの保健医を、クイックは不振げに見つめる。
……苦手、なのかもしれない。
何を考えているのか、わからないから。
それでも、淡泊な表情の合間に時々見せるその笑顔は嫌いではないと、クイックは思った。
その長い指が、クイックの脚に絆創膏を貼ると
「終わったぞ」
名残押しそうに、絆創膏の箇所を人差し指でなぞり、離れた。
「……どうも」
クイックはそれだけ呟くと、グラウンドに戻ろうと立ち上がった。
……そろそろ大会が近いのだった。
こんな小さな怪我でサボっている場合ではない。
「クイック」
「……?」
―――風が逃げて行く
折角、この爽やかな風を独占出来たと言うのに。
メタルは思わず、立ち去ろうとするクイックの腕を掴んでいた。
クイックは、眉をひそめると振り向く。
「もう、怪我するなよ。」
「!?」
された行為に、クイックの身体がピクリと震えた。
メタルが身を屈めていた。クイックの脚部に再び触れると、絆創膏が施された箇所に、静かに唇を落とす。
愛おしそうに瞳を細めながら、ちゅ……と静かに音を立てる柔らかい口づけを。
彼は静かに唇を離すと、下から上目使いにクイックを見ながら、「おまじないだ」と言って笑った。
「…………ッ!!?」
ああ、だから。
コイツは苦手だ。何をしでかすかわからないから。
コアから放出した熱が、一気に顔まで上ってくる。
酷く、熱い。
気がつけば、乱暴に保健室の扉を開け走り出していた。
なんなんだ
なんなんだよ……!
施された絆創膏から、痛みから来る様な熱さとは明らかに違う、痺れる様な甘い熱さが、じわじわとクイックの身体を侵食していくようだった。
END
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あまぁぁぁーーーーい/(^O^)\