ロックマン小説
□君と笑顔とケーキ
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「……食べたい」
ムカツク、とは思ったが俺は正直な気持ちを口にした。到底、食欲には敵わない……
目前でそんなふうに食べられて我慢出来る程、俺の精神は強くない。
「食べさせろ」
小さく、言った。
メタルの赤い視覚サーチが意地悪く笑う。しかし今度の笑みには、意地悪さの中に、優しい色が見て取れる。……まるで楽しんでるような。
恥ずかしくなって、メタルから視覚サーチを反らした……頬が、熱い気がする。
「最初からそう言えばいい」
メタルの優しい声が降りて来た。
今度は、フォークに刺さった一欠片のショートケーキを、ゆっくりと、俺の口元に運んでくる。
「あーんしろ」
「…………」
仕方無いのだ。
だって俺には両腕が無い。こうやって食べさせてもらう他に方法は無い。
だけど、だけど……
恥ずかしいんだよ馬鹿野郎!!!
「ほら、早く」
「うう〜」
控えめに、口を開けた。
柔らかくて、甘い、物体が口に運ばれる。
その甘さと美味しさは、一瞬にして口中に広がった。口を小さめに開けたせいか、ふわふわしたクリームが上唇に付く。……もったいない。俺はそのクリームを舌で舐め取った。
クリームは、直ぐに舌の上で溶けていく。
「美味いか」
メタルが、純粋に笑っていた。意地悪い笑みでも、嘲笑でも無く、満面の笑みというやつだろうか。
コイツのこんな笑顔は滅多に拝めない。
「……美味い。もっと食わせろ」
そうか、とメタルは優しく言うと、またケーキの一欠片を俺の口元に運んだ。
いつもより、ケーキがずっと甘く感じるのは、このシチュエーションのせいか、メタルの優しげな笑顔のせいなのか。
「なぁクイック」
「……なんだよ」
「次からは絶対に食わせてやらんからな。自分で食えよ」
どういう意味だ。
俺はメタルの真意がわからず、彼の顔を見つめた。
「もう、怪我するなと言ってるんだ」
少し恥ずかしそうに笑った後、彼は、直ぐに真面目そうな顔をして口を開いた。