ロックマン小説

□君と笑顔とケーキ
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「……怪我すんなって……無理だろ。だって俺らは戦闘用ロボットだろうが」

そんなことは、初号機である彼が一番理解しているはずなのだが。
俺が言うと、メタルは少し悲しそうな顔をして「そうだな」と呟いた。

「甘い物が好きな戦闘用なんぞ聞いたことも無いがな……」

「じゃあ言わせてもらうが、エプロン付けてケーキ作る戦闘用なんてお前くらいだ」

悲しそうな顔をしたと思えば、メタルは直ぐ楽しそうに笑った。
彼は、ずいぶん表情が豊かになったと思う。(まあ俺に比べれば無表情なほうかもしれないが……)昔は、よくも悪くも、「機械」そのものだった気がする。少なくとも、「怪我するな」なんて言わなかっただろう。
むしろ、「多少壊れても敵を殲滅しろ」
そう、言っていたと思う。

「お前ホント変わったよな」

「……そうか?」

「ああ。なんか丸くなったっつうか」

「可愛い弟がいっぱい出来たからな。ほら」

メタルは言いながら、ケーキの最後の一欠片を差し出して来た。
赤い、苺がのったそれをパクリと食べる。……やっぱり、甘くて美味しいと思った。

「メタル」

「なんだ?」

「お前も怪我すんな」

一瞬、メタルはきょとんとした表情を見せた。
しかし直ぐ、真面目な顔に戻ると

「戦闘用ロボットだからそれは無理だと言ったのはお前だろうが」

そう、言った。

「そう……だけど、このケーキ食えなくなんの嫌なんだよ俺は」

俺はなんだか気恥ずかしくなって、メタルから視覚サーチを背けながら呟く様に言った。
彼は「子供だな」と言うと、俺の頭部を優しく撫でる。
子供扱いされるのは嫌いだ……しかし、ちらりと彼の方を見れば滅多に見せない柔和な笑みをこちらに向けていたので……なんとなく怒る気もなくなってしまった。

「お前の為ならずっと、傍でケーキを作ってやろう」

「メタルがケーキ作ってくれんなら、俺は傍で食べてやるよ」

―――だから、絶対に壊れるな

……なんとなく、そうは言えなかった。出そうになったその言葉を、すんでのところで飲み込む。
その言葉は、戦闘用ロボットである自分達を否定しかねない言葉、だったから。
壊れることを恐れる様な戦闘用ロボットなど、何の価値も無い。壊れることを承知で、戦いに赴くのが戦闘用ロボットの宿命なのだろう。
……でも
結局は恐れているのだ、二人とも。
俺達は、あまりにも平穏を知り過ぎたのかもしれなかった。

「約束だクイック」

しばしの沈黙を破って、メタルは言った。

「……ああ」

その約束は、もしかしたら守ることは出来ないかもしれないと、互いに知っている。
その証拠に、メタルの表情は切なげだった。明日、無事かどうかなどわからない……そんなことは、承知している。
だけど、

「約束だな」

俺は、満面の笑みを浮かべながら言った。
それを見たメタルも、安心した様な表情をしながら、笑った。

「だからもっと食わせろよ……まだ、あるんだろ?」

「……ったく。仕方の無い奴だなお前は」

なんとなく、もっと甘い物が食べたい気分だったのだ。
メタルは、「待ってろ」と言い残すと、ラボを出て行く。振り向きざまのメタルが微笑を浮かべていたのを見て、コアに暖かいものを感じた。
オーバーヒートした時の様な、熱すぎる感覚では無い。奥底から、じわじわと溢れてくる様な不思議な感覚だった。

人間が感じる、「幸せ」と言うのはこういうことを言うのだろうか。
戦闘用ロボットの自分にもこんな感覚があったのだなと、不思議に思う。

……戦闘用ロボット

…………まあ、いいや。
俺は、難しいことを考えるのは苦手だから、今はこの「幸せ」を享受すればいいのだ。

「クイック」

今度は、更に大きな苺のケーキを持ってきたメタルを見て、俺は笑った。
メタルも、嬉しそうに笑っていた。



END
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