ロックマン小説
□変態鋼の野望・後
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あらすじ
夫メタルの不倫を目前で目撃してしまった新妻クイック!愛は憎しみに変わり、嫉妬の炎が燃え上がる!この泥棒猫!メタルは俺のモノだ!愛憎が生み出した三人の悲しき結末とは……(このあらすじは本編と全く関係ありませんw)
「てめぇなんかと結婚した覚えはねえんだよぉぉ!」
がくがくがくがく
クイックは力いっぱい、メタルの肩を揺すった。振動で、機体が壁にぶつかり、クイックブーメランにより潰され破壊された内部の精密機器がミックスな状態……非常に危険な状態だ。
ただでさえ腹部のクイックブーメランがメタルの機体を圧迫してくるのだ。そんな中振動を与えられれば確実にティウンする。
「うごふあっ!」
内部からオイルが逆流し、メタルの口から錆色の液体が吐かれる。
メタルの口からげほげほと、苦しそうな咳が漏れた。
「うあ!オイル吐くなよ汚えなあ!!」
「だ……だったら頼むから揺するのやめてくれ……ティウンする」
クイックは、青い瞳を見開くと、気まずそうにメタルの肩から手を離した。
クイックブーメランがメタルを苦しめていることに気づき、慌てて巨大なそれをひっ掴む。
その後、彼は、ふいとメタルから顔を背けた。
「クイックお前……」
「……なんだよ」
「嫉妬、してたのか?」
ニヤリと、メタルが笑った。瞬間、クイックの全身が熱くなる。
―――嫉妬?
まさか、まさか……
嫉妬なんて人間らしい感情が果たして自分にあるのだろうか?純粋なる戦闘用ロボットである自分に?
何故か、メタルがクラッシュとイチャついていて腹がたった。キスしようとしていて泣きそうになった。裏切られたと思った。
―――これが……
嫉妬?
コアがせわしなく、ドクドクと稼動する。コアから放出された熱が全身に行き渡り、酷く、熱い。
違う、これは、エラーだ。嫉妬なんかじゃ、無い。
俺は戦闘機械なのだ、嫉妬など、女々しい感情があるはずが無い。
クイックは自分に言い聞かせる。
「違う!嫉妬なんかじゃねぇ!エラーだ……電子頭脳のエラーだ……エラーなんだ!」
「そうなのか?俺は」
メタルの腕が、クイックの右手を引っ張った。
「!?」
機体が、傾く。バランスを崩し前倒しになったクイックの機体は、壁際に座り込んだメタルの上に覆いかぶさっていた。
クイックの視覚サーチの直ぐ近くに、メタルの端正な顔があった。
彼はまた、ニヤリと笑う。
「俺はお前が嫉妬してくれて嬉しい。嬉しすぎて壊れそうだ」
「な…………」
クイックの聴覚サーチに、メタルの唇が触れた。低い、しかし優しい声で囁かれる。
反論しようと、した。しかし、口は上手く言葉を紡ぐことなど出来ず、ただパクパクと無意味な動きを繰り返すだけで。ただでさえ機体内の温度が上昇しているのに、メタルの言葉を聞いた瞬間、クイックのコアから電子頭脳まで、一気に甘い熱がせりあがってくる。
きっと、顔の人工肌は真っ赤だ。
―――嫉妬じゃない
せめてもの抵抗として、クイックは頭を左右に振った。
「嫉妬だよ、クイック。それは嫉妬だ」
「ちが……」
「本当に可愛いなお前は」
メタルの腕が、クイックの腰部を掴んだ。ぴくりと震えたクイックの機体を、自分のほうへ導く様に、引き寄せる。
視覚サーチ一面に映ったのは、メタルの赤。キスされているのだと、気がついたのは随分と時間がたってからだ。……いや、実際はそんなに長い時が立った訳では無いのかもしれないが、クイックにはまるで時が止まっているかのように感じられた。
「…………ッ!?」
唇が触れ合うか触れ合わないかの、優しいキスだった。ほのかに、錆臭いオイルの味がするにもかかわらず、それすらも甘く感じるのは何故だ?
唇を離した時の、メタルの表情は優しく微笑んでいた。クイックは戸惑い、メタルの腕から逃れようと身をよじるが、彼は離してはくれない。それに、甘い熱に侵されたせいなのか、力が入らないのだ。
「クイック」
かちり
「……?」
……何だ、この音。
「お前のハートにプラグ☆イン」
…………
………………?
「ほげええええええ!?」
メタルは親指を立てながら、いつもの爽やか(いやキモヤカ?)変態スマイルを浮かべる。それを見た瞬間、クイックは奇声を発した。
……何か入れられた!これはフラッシュやヒート、ウッド、そしてクラッシュが犠牲になった、変態ソフトに違いない!
「ちょ……おま……何いきなり入れてんのぉぉぉ!?空気嫁!!俺すっげーときめいてたのにぃぃぃ!?てめぇなんかマジで嫌いだああああああああ」
「ハッハッハ……お兄ちゃんはクイックの可愛い様を見るためなら卑怯なことでもなんでもする!……ということで、お兄ちゃんが一番好きなのはクイックだから安心しろ」
「俺は嫌いだやっぱ嫌いだ馬鹿野郎!!!」
変態なプログラムが電子頭脳を支配しだす。
抵抗しようとするも、デジタル面は不得意なクイックには、そのプログラムを撃退する程の処理能力は無い。ゆるゆると、電子頭脳は何かに侵食されてきている。
「……く……!」
電子頭脳に、痛みが走る。立っていられない程の激痛に、クイックは顔をしかめた。
畜生……霞んだ視覚サーチを憎憎しげにメタルに向ける。すると、メタルは何かを訴えるかのように、険しい表情で、口を動かしていた。
―――なんだ……?聞こえない…………後……ろ?
瞬間、背後に殺気を感じた。何かが、背後から迫ってくる。
プログラムに頭脳を侵されながらも、クイックは彼特有の並外れた戦闘センスで、素早く横に飛んだ。
壁をドリルがえぐる音と、激しい振動が辺りを支配する。クラッシュのドリルアームが、メタルの頭部の直ぐ上……今までクイックの胸部があった付近の壁を貫いていた。
あと、少しでも反応が遅れたら自分はスクラップになっていただろう。
クイックは荒い息をつきながら、クラッシュを見た。
……まさか、暴走。
ゆっくりと、クラッシュの瞳が、クイックのほうを向く。燃える様な、凶凶しい赤が自分を見据えていた。小さな唇が、開かれる。
「……メタルおにいたまは渡さないメタルおにいたまはクラッシュだけのおにいたまだから。クイックには渡さない。おにいたまおにいたまおにいたま……」
「…………ッ!?」
狂った赤の瞳をたぎらせ、クラッシュはぶつぶつと、独り言のように呟いていた。