ロクマ小説2

□ブログ小話3
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動かなくなったジョーを見た。自分のところにきて一年…………大量生産型の凡庸タイプにしてはなかなか頭の回るロボットで、自分が居ない時の基地を任せておける程には重要視していた。
しかし、最近こうして停止状態に陥ることが多かった。その度、幾度となく修理をしてきたが、もう限界だったのだろう。
メタルは無表情で、ジョーの胸部装甲を開いた。鈍く輝く、鋼鉄性のコアに触れてみる。微かに脈動するそれには特に異状は見受けられない。
では、電子頭脳?それとも、神経回路に異状をきたし駆動系に電気信号が行き渡らなくなったか。……なんにしても。

「もう使えんか」

コアが使えるのならば、他のジョーの機体に移植すればいいだけだ。コアが無い待機中の戦闘型ロボットならあったはずだ。
こう頻繁に機能停止されては任務遂行にも関わるし、何回も修理を行うよりはそろそろ新しいロボットを投入するほうが効率的だと判断し、動かなくなったジョーを抱えた。









「よぅ、メタル兄貴」

廊下を進んで行くと、向こうからフラッシュが歩いてくる。メタルは少し瞳を細めると、片手を上げる。
徹夜明けの仕事でもあったのか、視覚サーチの下にくまがあった。また、情報収集の仕事でも任されたのだろう。

「部下の修理か?」

フラッシュの問いに、メタルは頭を横に振った。

「コアを移植する。もう限界だと思ってな」

「な……でもソイツ、長い間、兄貴んとこに居た奴じゃねぇか!精密検査したのか、電子頭脳に異状は!?」

「……?凡庸タイプにそこまでする必要はあるのか?かえって時間がかかるし手間だ。だったら捨てて新しいものを使ったほうが効率的だと思った」

「でも、そいつは……!」

お前によく尽くしてきたじゃねぇか。情とかねえのかよ……そう、続けようとして、フラッシュは言葉を喉に詰まらせた。
そうだ。
メタルは、父や自分達以外の者への情などは持ち合わせていない。非情……と言う訳では無く、他者へと向けるそういう感情がわからないのだ。

「?どうした?」

穏やかに笑いながら首を傾げるメタルを見ながら、フラッシュはため息をついた。

「……俺がやる」

「?」

フラッシュは、メタルの腕からジョーを無理矢理奪う。メタルは心底、不思議そうな顔でそれを見た。

「どうするんだ、そいつはもう」

「兄貴がいらねーっつんなら俺がもらう。……俺が修理して使う。……いいよな」

「変な奴だな……それより早くスリープモードに入れ。だいぶ疲弊しているようだが……あとで何か栄養があるものでも」

おかんの様な小言を言い出したメタルを置いて、フラッシュはジョーを抱えながらラボへと向かう。
父や自分達……特にクイックには異常な執着を見せるくせに、その他の者には全く興味は示さないのだから不思議だ。
それだけ精神が未発達なのかもしれない。……まあメタルだからしょうがないかと思いつつも、こうやって使い捨てされるジョーや部下達は可哀相だ。







精密検査をしてみれば、なんのこともない。電子頭脳から繋がる回線が古くなり、ショートしていただけだった。
回線を全て付け替えてやれば、またしばらくは元気に動けるようになるだろう。メタルは弟達のメンテナンスや精密検査は執拗に行うし修理の腕は自分よりずっと上なのに、部下達へは酷く無頓着なのだな、とフラッシュは心中で呟いた。
やはり彼にとって、部下などは単なる使い捨て程度なのだろう。自分とは全く違う考え方だ。
一度、部下の扱い方について我を忘れ、本音をぶつけてみたことはあったが「俺にはわからない」と悲しげな表情で苦笑いされただけだった。そこでわかったのだ。「彼と自分達では根本的に違うのだ」と。
そもそも、彼が家族達に対して情を持ちえたこと自体奇跡だったのかもしれない。自分が出来た当初は、もはやブラコンの化身だったが、エアーやバブルの頃は、感情など無い戦うだけが目的のロボットだったらしい。
クイックが出来なければ、もしかしたら弟達すらも簡単に切り捨てる様な、ただの「戦闘型ロボット」になっていたのかもしれないと思うとゾッとした。
ジョーの修理を終え、近くのメンテ台に腰掛ける。程なくして、ジョーの機体から聞こえてきた機動音。

「おっ……再起動したか」

「……フラッシュ……マン様?」

ジョーの視覚サーチに光が灯る。彼は緩慢な動きで起き上がると、キョロキョロと辺りを見渡した。

「自分はメタルマン様の基地を任されていたはずなのですが。どうして貴方が自分を直してくれているのでしょうか」

「あー、なんか機能停止したらしくてな……ああ……と」

捨てられて、コアを移植させられそうになっていたなど本人を前にしては言える訳が無い。フラッシュが口を濁していると、ジョーは「ああ」と何かに気付いた様に、言葉を紡いだ。

「自分は捨てられるところだったのですね、自分は何度もメタルマン様に修理をして頂いたり迷惑をおかけしていたので……仕方が無いことです」

「……お前、」

彼は……メタルに捨てられたのだ。行くところは無い。だったら自分の部隊に、そう言いかけた時、

「では、自分はメタルマン様のところに戻ります。フラッシュマン様、自分は貴方の部隊の者では無いのにも関わらず修理して頂いて……本当にありがとうございました」

「え、いや、あの、戻んの?マジで?」

ジョーの言葉に、フラッシュは狼狽した。あいつのところに戻るのか?いつ切り捨てられるかわかりもしないのに。

「ええ。あの方は、自分ごときが戻っても喜びはしないでしょうが、いつも通りの無表情で迎えてくれるでしょう」

ジョーは自信に溢れた声色で続ける。

「フラッシュマン様はあの方は我々に対して非情だとお思いでしょうが……あの方はいつも我々の被害を最小に抑える様な戦術を組んで下さいます。感情の出し方がわからないだけで本当はお優しい方なのだと思いますよ。自分はそんなメタルマン様を尊敬しておりますので」

「あ、ああ……」

丁寧に礼をしてラボから去って行くジョーを、フラッシュはただじっと見つめていた。
本当に感情の出し方がわからないだけなのか。それともワイリー博士の金欠を危惧しての被害を抑える戦術なのか……フラッシュにはわからなかったが、

「あいつ、わりと部下には信頼されてんのな……」

一人、呟くと天井を仰いだ。自分には、わからない。彼と自分とでは部下に対する扱いが違いすぎる。
まあ、確かに。彼の部隊は優秀だ。息が揃っているし、隙も無い。それは部隊が隊長を信頼しているからであって。

「でも気にくわねぇ」

早くメタルも、部下に対する情を身につければいいのに。でも、部下にたいしても、おかん発言するようなメタルはキモいよなと思いつつ、メンテ台に横になる。
酷く、疲れた。
今日はここで寝てしまおうと視覚サーチを閉じ、彼はスリープモードに移行した……
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