ロクマ小説2

□ブログ小話3
6ページ/8ページ



「なーメタル。暇だ構え」

「…………」

そう言って、ソファーに座るメタルの肩を後ろから抱きすくめてきたのはクイックだった。
メタルは、あまり感情が伺えない瞳を、それでも少し迷惑そうに泳がせると溜息をつく。
彼は再び、手にしていた新聞に視覚サーチを落とそうとした。しかし、いつの間にかその手にあったはずの新聞は消えていて……
どこに行ったのかといぶかしげに顔をしかめたメタルの視覚サーチの前を、新聞がヒラヒラと揺れていた。クイックの手がからかうように、それを揺らしていたのだった。

「返せ、まだ読み終わっていない」

「やだ。構ってくれねーじゃんコレあると」

目の前の新聞を掴もうとすれば、クイックの手が素早くそれを放り投げた。ヒラヒラと床に落ちていくそれを目で追うと、再びメタルは溜息をつく。

「クイック」

低い声で呟き、振り向けばクイックのからかうような笑顔が飛び込んできた。
長男の威厳に満ちた、ひと睨みをくれてやるが、クイックは平気そうにクスクスと笑うだけで、たいした効果は無いらしい。

「メタルさー、いっつも眉間にしわよせてるよな。笑えよ、たぶん可愛いぜ」

「なんだ可愛いって……嬉しくない」

メタルは不機嫌そうに言うと、クイックから視線を外しソファーに機体を沈ませた。この弟は本当に何がしたいのかと、視覚サーチを閉じる。
同時に、口元にあったマスクが取られ、いつもは隠れた唇になんらかの感触があった。
温かくて、柔らかい。

「……!?」

驚いて視覚サーチを開く。視覚サーチいっぱいに、クイックの端正な顔があった。彼の唇が、自分のそれに触れていることに気付き、ぴくりと肩を震わせる。

なんとかその機体を押し返そうとするが、クイックの両腕が自分を抱きしめて離してくれなかった。

「……!……!!」

せめてもの抵抗で、その胸装甲を強く、叩く。
唇が離れ、ただ呆然として瞳を見開くしかないメタルの視覚サーチに、クイックの笑顔が飛び込んできた。

「……お前、馬鹿か!こんなことにエネルギーを使うんじゃない!」

「いーじゃん、別に。な、笑えって……こうやって」

クイックの指が、メタルの左右頬に触れた。そのまま、人工皮膚を指で引き上げる。
まるで笑ったような表情の、メタルが居た。

「ホラ、可愛いじゃん」

「……離せ!」

「赤くなってるけど、照れてる?」

クイックが、笑った。
照れる?わからないそんな感情。
しかし、何故かコアは爆発しそうな程熱くなっていたし、なにかのエラーなのか顔にも熱が集まって来ていた。

「これは、エラーだ」

「エラー?違うだろメタル、それは」

「エラーだ……エラーなんだ……だって俺は」

純粋なる戦闘用ロボットなんだぞ、
そう言おうとしたメタルの唇を、再びクイックの熱い唇が覆った。
一体何のエラーなのか、機体の何処に異常があるのか、メタルは必死に考える。しかしその答えなど出せぬまま、彼の電子頭脳はクイックの舌の感触と、じわじわと浮かび上がってくる快感に蝕まれて、どうすることもできなかった。








END
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ