ロクマ小説2

□ブログ小話3
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俺の、スリープモードからの目覚めは悪い。
覚醒しても、しばらくぼんやりとして布団から出ることが出来ない程だ。
何故かと言えば、デジタルに秀でている故に、俺の電子頭脳は他の機体よりもだいぶ精密機器とそれを繋ぐ回路が密集している。それら全てが覚醒し終わるまで時間がかかるらしい。
感覚としては人間で言う低血圧ってヤツかもしれねぇ。

今日の朝も、そうだ。
電子頭脳は覚醒しているのに、ぼんやりとした感覚がある。視覚サーチは正常に働かず、霧がかったように視界が悪い。…………しかも今日は、何か腹が重いんだが……
この重さは正直、半端ない。鉄の塊を乗っけてるみたいだ。ぼんやりとしていた視覚サーチがクリアになり、次第に目の前に、居るはずのない機体の姿が映った。
……突き付けられたドリルアーム。暴走状態を示す赤い瞳…………
……え?暴走?

「フラッシュ、サンタさんは何処だ」

いつもより、幾分か低い声が降りてくる。
いつもの無邪気な顔では無い、無表情な顔が俺を見据えている。
……これは起きざるを得ない。ってゆうか何だこの状況は。意味がわからないんだが。

「……クラッシュ」

訳がわからず、俺に乗っかる兄機体の名前を呼ぶ。

「フラッシュ。昨日サンタさんが来なかった。俺へのプレゼントを忘れてしまったらしい。サンタさんは何処に居る、答えろ」

「…………ハイ?」

「サンタさんだ。フラッシュなら知ってるだろ、教えろ」

よくわからないことを言いつつ、クラッシュはドリルアームの先端を俺の鼻先に触れさせた。
……つまり、何?サンタさんが来なかったら暴走したのか?……真面目に?

「ちょっと待て。サンタなんぞ知らん」

「嘘つくな。去年『サンタにプレゼント依頼の手紙書いてやるから欲しい物を教えろ』と言っていただろ」

……あ、言った。
それはもちろん、プレゼント調査の名目であって…
うわぁ……コイツ、マジなのか。

「あんなぁ、クラッシュ。サンタは居ないんだぞ……」

「嘘つくな……去年までサンタさんは来ていた!」

どがぁっ!と大きな音がして、ドリルアームが俺の右頬すれすれの枕を貫いた。
破壊された枕(恐らくは寝台までも貫いているだろうが)から、鳥の羽がフワフワと飛び出してくる。
視覚サーチを見開く俺を、無情な赤の瞳が見つめていた。

「プレゼントを大人しく渡せば、サンタさんに危害を加える気は無い。だから教えろ。サンタさんは何処だ」

サンタさん逃げて超逃げて!
そんな真っ赤な目で言われても信用出来るか!敢えて言うなら毎年サンタをやっていたのはメタル兄貴とエアー兄貴だ。
「ちび達も居るし、クラッシュ達も、もう子供扱いはせずプレゼントはやめよう」とメタル兄貴が言っていたのを思い出す。
あああああ……まさかこんな結末になろうとは。まさかサンタごときで暴走するガキがこんなところに居るとは!

「フラッシュにーちゃーん!サンタさん来て無……あーーークラッシュ何やってんの!」

「どうしたのヒート、って……クラッシュ兄さん!!なんで暴走してんの!落ち着いて!フラッシュ兄さんがティウンしちゃう!」

突然、扉が開き末っ子二人が転がり込むように部屋へと入ってきた。
ナイス、ナイスだ二人とも!
クラッシュはゆっくりと振り向くと、二人をちらりと見た。

「いい子にしていたのにサンタさんは来なかった。だからフラッシュにサンタさんのアジトを聞いて襲撃してこようと思う」

襲撃て……!お前、サンタに危害は加えないとか言ってたじゃねえか!
そもそも、いい子がそんな結論に達する訳がねぇ!

「あ、じゃあ僕も手伝うーサンタさん僕らのとこにも来なかったから、一緒に襲撃しようよ」

ヒーーーーーーート!
襲撃しちゃダメ!そんな楽しそうな笑顔で言っちゃダメ!
てかテメェら二人が組んだらダメ!

「よし決まりだ。フラッシュ、壊されたくなかったらサンタさんの居場所を吐け。……俺はお前を壊したくはないんだ頼む」

「ほらほら、さっさと吐いちゃいなよー」

攻撃特化型二機に攻められて、俺は涙目状態である。
確か北欧にサンタクロース村とかなんとかがあったはずだが、アレは本物のサンタクロースでは無い。
今のコイツらなら無関係なその村を本気で破壊する気がする……
かと言って、俺だって朝から壊されたくない。クラッシュのドリルアームが、俺のコア付近に当てられていた。

「やめてよ、兄さん達!フラッシュ兄さんは無関係だよ!そんなにプレゼントが欲しいなら僕が買ってあげるからもうやめて!」

なんていい子だ、ウッド。
サンタクロース、本当に居るなら真のいい子はうちのウッドです。
ウッドの大きな手が、俺に乗っかるクラッシュの機体に触れた。その泣きそうな瞳を見て、クラッシュの赤い瞳が微かに揺らぐ。
クラッシュは小さく喉を鳴らすと、構えていたドリルアームを床に向け、降ろした。

「……ウッド、ごめん。俺、お兄ちゃんなのに……勝手にキレちゃって……フラッシュも、ごめんね。サンタさん来なかったら、びっくりしたんだ」

赤の瞳に、微かにいつもの翡翠が混じる。……暴走状態はなんとか止まったらしい。
俺は、大きくため息をついた。

「サンタはな、お兄ちゃんにはこねーんだよ。最近、ちびが出来てお前らも面倒見よくなったからサンタも来なくなったんじゃねーの。ま、大人になったってことだ」

「……そうなの?俺、ちゃんとお兄ちゃんしてる?」

「してる、してる」

そう言って、クラッシュの頭を撫でてやる。彼は微かに笑ったが、やはりプレゼントが無いのは不満らしい。その表情には悲しそうな色が見てとれた。

「とりあえず、降りろクラッシュ」

「あ、ゴメン」

「あと、皆で買い物行こうぜ。サンタじゃなくてわりぃが、なんか買ってやるよ。あ、一人1000以内ゼニーな」

やっと軽くなった俺の腹部は、かなりへこんでいた。苦笑いしながらそこを摩り、立ち上がる。
後方で、わっと歓声が上がったのを聞いて、俺は小さく笑った。










プレゼント後

壊「フラッシュ、お菓子いっぱい買ってくれてありがとう」

光「よかったのか、お菓子で」

壊「うん。……俺からもフラッシュに何かあげたいけどお金持ってないんだ」

光「別にいらねぇよ、気持ちだけで十分だ」

壊「それも悪いから、後で俺のお尻触ってもいいよ」

光「………………はあああああああ!?ちょ、何!?」

壊「メタルが、俺のお尻はもちもちしてて気持ちよさそうって言ってたから、たぶん気持ちいいよ」

光「(歯医者コロス)……あの、本当にいいから……あー、あー、えーと、とりあえず、落ち着こうか」

壊「フラッシュが落ち着きなよ。じゃあ後でちゅーしてあげる」

光「(それも歯医者か……歯医者の入れ知恵なのか!?)えーと、うん。クラッシュ熱あるだろ。直ぐ寝ろ」

壊「……ぶー(誘ってるのに、フラッシュのヘタレ)」

光「…………(誘われている!?)」
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