ロクマ小説2

□3
2ページ/8ページ

【二人・1】




赤く輝く装甲。
マスクに隠されたその表情
機械的な赤の瞳が鈍く輝く。輝いて、それとすっかり同じ赤を映す。
その赤は、瞳の中で驚きに瞳を見開きながらゆらゆらと揺れていた。

メタルは、ただ赤の瞳を見開いた。何かを言わなければいけないと思った。
……ダメだ、声が出ない。
マスクの中の口をパクパクと動かす。妙に乾いた唇が金属製のマスクに触れるだけだった。

「メタルマン……」

そう言ったのは、目の前の機体だった。
自分と同じ色、同じ顔、同じ瞳……全てが寸分違わぬ「メタルマン」

「俺は強くなった……お前は要らない。メタルマンは二人も要らない」

何も言えず、立ち尽くしているメタルに、もう一人の「メタルマン」はブレードを向けた。
その瞳が、自分から逸れること無く、真摯に見つめてきていた。

「ちび」

なんとか紡ぎだした言葉は、異様に掠れていた。

「父よ。もう、ちびでは無い……俺は、メタルマンだ。貴方は言ったではないか。俺が貴方を越えた時、メタルマンになれと」

「……ああ」

もう一人のメタルマンの瞳が、苦しそうに歪められる。

「残酷なことを言う人だと思った。弱きものは要らない……だが、それは真実だ。貴方がどんな気持ちで"それ"を言ったのか、やっと理解した。
……俺は今、メタルマンにならなくてはならない。そうだろう」

「……ああ」

そうか、もうそんなに成長したのか。
自分の前に立つ彼の姿はすっかり大人で、立ち振る舞いも凛々しい。
冷酷な性格すら、自分とそっくりだ。もはや「ちび」の面影は無い。
彼は完璧な「メタルマン」だった。恐らく、自分よりも。

「ありがとう」

メタルは言うと、笑った。
その成長が、何よりも嬉しい。
しかしその言葉を聞いた、もう一人のメタルマンは益々目元を歪ませた。

「そんなふうに微笑うな」

その赤い瞳から、つつ……と流れ出る洗浄液。溢れ出るそれを拭うこともせず、もう一人のメタルマンは瞳を優しく細めるメタルを見つめた。

「お父さん、僕」

「…………ちび?」

ふっ、ともう一人のメタルマンの姿が掠れる。エラーのようなノイズを起こし、分解されていくその姿。
その精悍な姿は、幻のように掻き消えた。
代わりに、メタルの目の前に構築されたのは、いつもの小さなメタルだった。
泣いている。
不安そうに、大きな瞳から洗浄液を零して、小さな機体を震わせて、泣いている。

「やっぱり僕はお父さんにはなれない」

小さな声が、メタルの聴覚サーチに届いた。

「僕はメタルマンになりたくないっっっ!」

「ち……」

名前を呼ぼうとした瞬間、全てが、真っ白になった。
自分も、小さなメタルも、白に飲み込まれていく。その白の中で、手を繋ごうとした。繋ぎ止めようとした。
しかし、その手は小さな手に届くこと無く……ちびメタルは悲しそうに微笑んだ。



そして、メタルは覚醒した。





「……ゆめ」

窓から光が差し込む。鳥の囀りが心地よく響く。
妙に冷たい目元に触れると、濡れていた。ああ自分は泣いていたのだと自覚し、メタルはベットから起き上がった。
ロボットが夢を見るなど馬鹿げている。あれは記憶データの整理?閉ざされた感情の流出?それとも、予兆?

「あれは……俺の気持ち?」

夢の中のちびメタルは、きっと自分自信の正直な願望だったのだ。
自分も、ちびがずっとちびであればいいと思うことがある。擬似なのだとわかっていても「家族ごっこ」は幸せだ、楽しい。
しかし、それと同時に成長を願う自分も居る。
段々、わからなくなる。

「どうしたいんだ俺は……【あれら】を作ったのは俺なのに」

未だ瞳から洗浄液が流れつづける。
最後に夢の中で聞こえた、ちびメタルの悲痛な叫びと、悲しそうな笑顔が、脳裏から離れなかった。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ