ロクマ小説2
□3
6ページ/8ページ
【二人・その後】
「フラッシュ、お前がもし、俺の作ったデジタル空間にハッキングしたらおおよそ何分かかる」
「はあ?」
机に両足を上げながらアルバム整理をしていた青い機体は、実に面倒くさそうな声を上げた。彼は自分の時間を侵されるのをあまり良しとしていない。
・・・・・特にカメラやアルバムをいじっている時などに話しかけると大抵は不機嫌そうな顔をした。
いきなり自室に入ってきたと思えば、そんな質問をしてきた長兄を胡乱げに見つめると、フラッシュは持っていたアルバムを机にゆっくりと置いた。
そのアルバムに写っていたのは、クラッシュとちび二機が仲良く戯れている場面だった。手元では愛おしそうにその写真を撫でていたが、彼の顔は仏頂面だ。
「俺なら、メタル兄貴が作ったデジタル空間に侵入なんざ絶対しねえな。どうせ陰険な罠がしかけてあるんだから。前、侵入者の精神喰らいつくすプログラム作ってたろ。ありゃあいただけないね」
「もしも、の話だ。ただ、純粋に知りたい」
「もしも・・・・ねえ。・・・どうだろな」
この長兄は淡白そうに見えて、わりと粘着質な性格だということをフラッシュは嫌というほど知っていた。恨みを買うと後々、面倒なことになる。
ここはとっとと返事して、とっとと帰っていただくのが吉、とでも考えたのだろう。
真剣な顔で演算を始める。
「・・・・2分38秒」
「ほう」
「ああ。あんたの作るプロテクトやらウイルスは、俺程ではないにしても厄介だからな。流石の俺でもそのくらいは欲しい」
「・・・・・2分41秒・・・・・・」
「あ?何?」
「俺のコピーが俺の作った空間に侵入し、完全に支配するまでの時間だ。2分41秒・・・・だった、確かに」
「なんだ、と?」
フラッシュの紫色の瞳が驚きに見開かれていた。何度も瞬きを繰り返すと、呻り、視覚サーチを閉じる。どうやらまた、演算を始めたようだ。
しばらくして視覚サーチを開いたフラッシュは「冗談だろ」と小さくつぶやいた。
「俺の出した時間はあくまで「ハッキングに成功するまでの時間」だ。完全支配となるとあと1分は欲しい・・・・・なあ、兄貴。あんたそんな真顔で冗談言うようなヤツだったっけ?」
「冗談ではない。本気だ」
「・・・・そりゃあ・・・・・、とんだ化け物だ。あいつ、いつの間にそんな・・・・」
「子供というのは自分の好きなことに対しては夢中になるものらしいからな・・・・俺のコピーは電子空間をたいへん気にいったらしい。しょっちゅうデジタルダイブして遊んでいた。
・・・しかしまさかあれ程になるとは思わなかった。デジタル戦において、俺を超えているのはわかっていたが、まさかお前をも超えたとは・・・・・・」
メタルはしばし視覚サーチを閉じて、思考を巡らせているようだった。
その無表情からは、メタルが何を考えているのかフラッシュにはわからなかった。
嬉しいのか、それとも悔しいのか・・・・
恐らく彼の思考はクイックくらいにしかわからないのだろう。
「しかし、肝心の模擬戦闘はさっぱりだった。このままでは単なるあたまでっかちだな」
しばし考えて、メタルが言いだしたのはその言葉だった。
「何、それ、俺のこと言ってんの?悪うございましたね。単なる頭でっかち最弱のかよわいロボットで・・・・・・」
「別にお前のことを言ってるわけでは無い。俺のコピーのことだ」
「あーはいはい、わかってるよ、そんなこと。まあ・・・ちびメタはとろいからなあ・・・動きもゆったりしてるしマイペースっていうか、な」
フラッシュから見ても、ちびメタルの動きは遅い。戦闘などの争いごともあまり好きではないようだし、臆病なところもある。
臆病であるということは、慎重である、ということでもあるから司令塔としては悪くは無いのかもしれないが実際戦闘に出た時どうにもならないだろう。
「それは俺も危惧している。これからは実際に戦闘訓練もさせようと思う」
「また泣き出すぞ」
「・・・・・可哀想だが、心を鬼にして」
「あんた弟に対しては鬼になれるくせに、あのちびどもには甘いよな・・・・・」
「・・・・・そうだろうか」
「ああ」
メタルは少し恥ずかしそうに目元を細めた。
「それだけ、聞きたかった。邪魔したな」
「あ、ああ」
彼の目元が、いつも通りの無表情に戻った。そのまま、踵を返し規則正しい足音を立てて部屋を出て行った。
フラッシュはしばし、呆然と扉のほうを見つめていた。
デジタルにおいてとうにメタルを超えたという彼のコピー。
まるで人間並みの成長能力ではないか。
「本当に・・・化け物だな」
戦闘能力においても、彼等コピーがオリジナルを超えた場合、オリジナルのほうはどうすんのかなあと、フラッシュは考えた。
彼らの成長ぶりを見ていると、まだまだ先のこと・・・とは思えなかった。
END