ロクマ小説2

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いつもの彼とは違う後ろ姿を、フラッシュはただじっと見ていた。
明るいオレンジ色の装甲と、真っ白な防護服は黒く煤けてしまっている。
廃ビルと瓦礫の中立ち尽くす彼は、自身が起こした爆発の余韻の煙をすうっと吸い込むと、振り向く。
自身のドリルアームにガードロボの頭部が突き刺さったままなのに気づき、無表情なままそれを払った。
渇いた音をたてて、それはビルの壁に激突し、壊れた。

「この機体は嫌いじゃない」

淡泊そうな唇が、そう紡いだ。

「そうか」

フラッシュは仰向けに倒れたまま、言う。
機体が違うだけでここまで性格に変化が表れる兄機体には全く驚かされる。
フラッシュと変わらないくらいの背丈を持つ兄機体……クラッシュは空を仰いだ。
周りの風景は灰色しか無いのに、やけに晴れた青い空がミスマッチだと思う。

「冷静だ。すごく、冷静だ。いつもの、破壊衝動に飲み込まれ暴走すると言うことはなさそうだ。それに、幼い故の無謀さも、残虐性も無い」

「頭までよくなってんのな……オニイサマ?」

「不服そうだなフラッシュ。お前はこの状態の俺が嫌いか?ああ、お前は保護欲が強いから子供型のほうが嬉しいのかもしれんな。俺を世話している時のお前は楽しそうだ」

「冗談じゃねーよ……あー、もう、賢いクラッシュなんてクラッシュじゃねぇ!」

「失礼な言い方だな。俺もたまには兄のようなことをしてみたいんだよ」

クラッシュは、伏せたままのフラッシュのもとへと足を進めた。
拗ねたようなフラッシュの腰と膝裏に、自身のドリルアームをゆっくりと滑らせるとそのまま持ち上げてやる。
フラッシュは特に抵抗をみせるでもなく「クソ……」と呟いた。正確には、脚部神経が損傷した為、動けないだけなのだが。

「そう腐れるな。帰ったら子供型に戻る。もともと俺は、子供型のほうが動きやすいからな」

「へいへい」

「何故そんな態度が違うんだ……子供型の時はあんなに優しいのに。ああ、もしかして照れているのか?」

クラッシュの切れ長の瞳が、細められる。
フラッシュは「馬鹿か」と言うと、ほのかに赤みがさしてきた頬を隠すためかそっぽを向く。

「たまには兄をやるのもいいな」

クラッシュは、そう言うと歩き出した。
腕の中で居心地悪そうにむくれているフラッシュを見て、こんな弟も悪くはないなと声には出さず、心中で呟いていた。
兄らしいことなど、したことはなかった。迷惑をかけてばかりだった。だから、こうして兄らしいことを出来るのがクラッシュには嬉しかった。
青い空に、黄昏時の橙色の光が差してきたのを見て「なんか俺達みたいだな」と独り言を呟く。
弟はもう視覚サーチを閉じてスリープモードに移行してしまっていた。
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