ロックマン小説

□誘う瞳
1ページ/4ページ





「……なあ、メタル?」

「何だ?」

「……何って……わかるだろ?」

そう言って、クスクス笑いながら擦り寄ってくるクイックを見て、メタルは小さく溜息をついた。

彼の青い瞳は、いつも以上に挑発的で、メタルを上目使いに見つめている。
戦闘中、敵を煽る時のクイックの瞳に似ているかもしれないと思ったが、今の彼の瞳には戦闘中にはない艶のある輝きがある。

その瞳が実に楽しそうに、そして自信に満ち溢れ、メタルを見ている。

「メタル」

声も、少し掠れた様な、鼻にかかった様な、甘い音色。
聴覚サーチのすぐ近くで囁かれるのは、正直たまったものでは無い。
妙に艶のある仕種と表情で、猫の様に擦り寄るクイックを見ながら、メタルは自身の高濃度エネルギー触媒を、ぐいと飲み干した。



……事の始まりはこうだ。


フラッシュが、高濃度エネルギー触媒―――通称ロボ桜を何処からか買ってきた。
人間で言う酒と同じだ。
ウイルスやドラック程ではないにしても、それは確実に、しかしそれに気づかせない程ゆるゆると、神経を麻痺させ人格を変える。
リビングルームで、兄弟総出の酒宴が始まった。

ロボット各々の個人差にもよるのだろうが、どうもクイックは絶望的な程、酔い易い類のロボットであるらしい。
一口飲んで、いきなり笑い出したりした。
メタルはクイックの身体を心配し「あまり飲むな」と窘めたが、陽気になってしまったクイックは忠告を聞かずガバガバとそれを飲みだした。

時間がたち、フラッシュは酔いが回って半ばスリープモードに入りかけている兄――クラッシュや、弟達――ヒートとウッドを部屋に送り届け、寝かし付ける為早々に離脱した。
エアーはメンテナンスがあると言って、ラボへ行ってしまったし、
バブルは「遅寝は肌に悪いから」と訳のわからないことを言って、リビングルームから出て行ってしまった。

……そして、メタルとクイック二人だけが残されたのだった。
二人きりになった途端に、クイックはメタルに甘えだしたのだ。
メタルにいきなり抱き着いたり、戯れに「お兄ちゃん」と言ってみたり。
正直、悪い気はしなかった。むしろ嬉しい。

しかし、それと同時に、いつもとは違い過ぎるクイックの言動に不安を感じた。
神経回路が完全にやられてしまったのでは?と。

この弟は、素直ではないのだ。感情の表し方を知らないのかもしれない。
いつもは、メタルが優しげな笑みを浮かべても恥ずかしそうに俯いたり、わざと不機嫌そうにそっぽを向いたりする。
「好きだよ」と囁いても、無言で睨まれる。(ただ、頬が赤らんでいるので照れているだけだと言うのは容易に認識出来た)

そんな弟が

「メタル好き。大好き。」

そう言って、愛玩用の猫の如く身体を擦り寄せてくるのだ。

―――誘われている

そう、思った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ