ロックマン小説

□君と笑顔とケーキ
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目の前にはクリームたっぷりのショートケーキ。
……メタルの手づくりなのだと言うそれは、俺の大好物だ。

苺はつやつやと真っ赤に輝き、まるで宝石の様だ。雪の様に真っ白で、ツンと上向きに立つクリームが食欲をそそる。
ほのかな甘い香りに目眩さえ感じる程だ。

まるでその道のプロが作ったかのようなそれに、たらりと口の端から潤滑油が零れたのを自覚した。

「食べたいか?」

メタルは、俺に向かって意地悪く言う。
当たり前だろう。食べたくない訳は無い。似合わないと、ハゲの奴に笑われたことがあったが、もともと甘いモノには目がないのだ。
マスクのせいで口元は見えないが、その鋭い視覚サーチだけでニヤリと笑いながら俺を見てくるメタルを、上目使いに見つめる。

「食べたいのなら、食べればいい」

メタルは言いながら、ショートケーキを一欠片、フォークに取ると、ほれほれとその美味そうな物体を俺の視覚サーチの前にちらつかせた。
俺の視覚サーチはその白く柔らかそうなケーキを追って、上下左右に動く。

……新手の拷問なのか?
普段の俺なら、すぐに食らいつく。だが、今の俺にはそれを食べることができない理由があった。

「……そうか、食わんのか」

メタルは言うと、そのフォークに刺さったケーキを俺の視覚サーチの前で何回か泳がせた後、瞳だけでニヤリと笑いながらマスクを外し……
パクリ、とそれを食べやがった。

「あああ、ああああーーーーーーー」

「食べないお前が悪い」

「食べれるか!この状況で!」

「腕部を破壊されたお前が悪い」

……そうだ
今の俺には、双方の腕部が無かった。任務で、うっかり破壊してしまったのだ。
……いや、破壊されたのだ。暴走した糞クラッシュにな!!なんとか暴走は止めたものの、全身満身創痍。
メタルに救助を頼み、ラボに担ぎ込まれ、メンテ台に寝かされた。
機体中に差し込まれたコード類のせいで身動きは取れず、そこから微かに送られて来る電波信号のせいで酷く、だるい。
電子頭脳から送られる各部位の行動を促す為の信号は、現在、遮断されているため機体自体を動かすことが出来ないのだ。
唯一自由に動かせるのは、視覚サーチと口くらいだ。

「泣くぞ」

「泣け、喚け。俺は嬉しい」

「この薄情者!死ね!」

もう本当に嫌だ、この兄。
ニヤニヤと笑いながら、もう一欠片、ケーキを口に運び、食べる。
あああああ……ショートケーキ…………

「食べさせてやらんことも無い」

口をモグモグ動かしながらメタルは言った。
どこまで偉そうなんだよコイツ。何様だ。
口の端にクリーム付いてるぞ!
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