『precious』
小さな命を初めてこの腕に感じた日。
僕は一生忘れない。
『おめでとうございます。元気な男の子ですよ』
この世に生まれてきた喜びで泣き叫ぶ我が子。
さっきまで痛みに苦しんでいた君が、愛おしそうに瞳を細めた。
「良かった・・・。無事に生まれてくれて」
小さな君より、もっともっと小さな身体。
大切な命。
その守るべき存在が愛しくて、一気に胸が熱くなった。
「よく頑張ったな」
汗が流れる君のおでこにキスをして、二人一緒に抱きしめる。
「ありがとう、hyde。ずっと傍に居てくれて」
「ええよ。俺には見てることしか出来んもん」
「そんなことないよ。凄く嬉しかった、すぐに来てくれて」
"もうすぐ生まれますよ"
落ち着いた声でそう告げる看護師からの連絡を受けて、何もかもを放り出して駆け付けた。
嬉しさと期待と不安を抱えながら慌てて飛び出す僕に、"いってらっしゃい"と見送ってくれた仲間たちの笑顔。
あいつらにも教えてやらなきゃ。
父親になった、この喜びを。
「ほら、hydeも抱っこしてみて?」
受け渡された小さな身体を、壊さないようにそっと腕に抱いた。
物理的な重みは軽いけど、言い表せない程の神秘的な重みに思わず緊張する。
「hydeに似てるね」
「ほんま。分身みたいやな」
初めて会ったのに、そうじゃないような・・・不思議な感覚。
君と僕の血を分けた命。
君と僕の愛の証。
掛け替えのない、大切な人が増えた喜びが自然と言葉になる。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
沢山幸せにするから。
僕らの元に生まれた事を、心から喜んでもらえるように。
絶え間無く、幾つもの愛を注ぐから。
沢山の笑顔を見せて。
「ねぇ、hyde」
「ん?」
「これでやっと、家族になれたね」
"三人で幸せになろうね"
柔らかい微笑みを浮かべながら呟いて、愛しい瞳がゆっくりと閉じる。
「幸せにしたるよ、誰よりも」
愛しい愛しい、君の為に
可愛い可愛い、我が子の為に
僕はどんなことでも出来るよ
君たちが居てくれるだけで
僕は幸福だから
「ありがとう」
こんなに大切な気持ちを与えてくれて
こんなに素敵な出会いをさせてくれて
君たちの命
君たちの笑顔
全部、全部
「ありがとう」
どうか、掛け替えのない未来を
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