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□P・私のスーパーマン
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最近、スゴく視線を感じる。
学校では感じない。
学校へ行く時や帰る時、塾に行く時や帰る時…といった学校外で視線を感じる。
ほら。今も…。
背中に悪寒が走る感じ。恐い感じ。
「………。」
私は、この視線をかき消すように足早に塾に向かった。
***
『それ絶対ストーカーだよ。』
「ストーカー…?」
私に伝えてきたのは同じ塾に通う友達。
ストーカー…って女の子を追ってくる人…のことだよね…。
『誰か追っかけてこない?』
「…ごめん。恐くて後ろ見てない…。」
『そう…。…気をつけなさいよー。最近のストーカーはシツコイ上に気持ち悪い。何してくるか分かんないんだから。』
「うん。でも…大丈夫だよ。感じるのは視線だけだし、私の勘違いかもしれないから。」
嘘。全然大丈夫じゃない。今の話を聞いて恐いのがスゴく恐くなった。
自分の言葉で落ち着こうとしてるだけ。
私は不安を胸にしまいながら配られた問題用紙にペンを走らせた。
***
塾が終わり、真っ暗な道を歩く私。
友達に、一緒に帰ろうか?、と言われたけど断った。本当は一緒に帰りたかったけど、その友達は正反対だし何より迷惑をかけたくない。
私は1人暗い夜道を歩いた。
「………!」
…まただ。この視線。
…大丈夫。夜道とはいえ、この人込みの中だ。
大丈夫大丈夫…。
自分に言い聞かせながら歩調を速めた。
けどそれを誰かに後ろから腕を引っ張られ止められた。
誰だと思い後ろを振り返ると、そこには不気味に口の端を吊り上げて笑う知らないオジサンだった。
『…やっと捕まえた。』
「!!」
友達が言ってた事は本当だったんだ。
私は恐くて逃げようとしたが掴まれた腕はなかなか離れない。
「やッ…!」
声をあげようとしたら男は懐からナイフを出して見してきた。
『騒いだらどうなるか分かるよね。』
「…!!」
ナイフで脅されながら私は男に人がほとんどこない路地裏に連れていかれた。
***
暗い。そしてナイフを突き付けて不気味に笑う男。
恐い。
『ずっと君を見てたんだよ。』
ズイッと顔を近付ける男。息が臭い。気持ち悪い。殴ってやりたいけどナイフが恐くて何もできない。
顔を逸らし目を閉じて早くどっか行けと願った。
けど願っても叶わなくて、男の手が嫌らしく私の身体を触り始めた。
肩、腕、腰……
「ーッ!!」
胸を触ってきたので男の腕を払った。だが男は嫌がるどころか更にニヤリと笑った。
楽しんでる。
私は何をされるのだろう。恐い。恐いよ。
誰か……
「誰か助けて…!!」
男の腕を払いながら声を振り絞って叫んだ。
その瞬間、男はナイフを突き付けてきた。
『騒ぐな!騒ぐと…!』
「!!」
やっぱり誰も助けてくれないのか…。
諦めなきゃ…男の言う通りにしなきゃいけないのか…。
…嫌だよ…ッ!!
?「何してんねん!」
一瞬の事だった。
声がしたのに気付いた時には、ナイフを持っていた男は飛ばされ地面を転がった。
?「おい。大丈夫か?」
声のした方を見ると、そこには知ってる人物が立っていた。
「……謙也君…。」
同じクラスの忍足謙也君だった。男を殴ったのだろう。謙也君の左手が赤くなっていた。
「な、なんでココに…。」
謙「買い物してたら、たまたま見つけたんや。…とりあえず…。」
謙也君はチラリと倒れた男を見ると、私に近付いてきて手を握った。
そしてそのまま引っ張って……
謙「逃げるで!!」
逃走した。
***
路地裏から逃げて、広い公園に辿り着いた私と謙也君。
手を引かれながらでも謙也君の足は速くて追いつくのに必死だった。
謙「ふぅ…。大丈夫…じゃなさそうやな…。」
「だ、大丈夫…ハァ、ハァ…。」
謙「無理すなや。…ちょっと待っとって。ジュース買ってくるわ。落ち着くやろうし。」
そう言って謙也君は私をベンチに座らし、離れようとした。
私は何故か咄嗟に、謙也君の服の裾を掴んでしまった。
謙「え。」
「あ、ごめん…。」
きっとまださっきの事が頭から離れられないんだ。
謙也君は落ち着かせようとジュースを買ってきてくれようとしてくれるのに…私は、なんてことしてるんだろ…。
私は、そっと裾を離そうとすると謙也君は静かに隣りに座ってきた。
そして私の手を優しく強く握ってきた。
咄嗟のことに驚いて謙也君を見ると謙也君は前を向いたままだった。
静かな公園。ちょっと寒い公園。けど、謙也君が黙って握ってくれた手はスゴく温かくて、スゴく安心した。
その後、謙也君は家まで送ってくれた。
優しいな。
謙也君、今君は、只のクラスメートじゃなくなったよ。
スーパーマンになったよ。
私のスーパーマン
続きます。