虚像の刻・短編集

虚像の刻・竜久と隆生、学校の帰り道
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放課後、竜久は決められた掃除当番を慌ただしく済ませ、先に帰ったの隆生の後を追った。
 
 
二人は従兄弟同士で同い年、同じ学校に通っている。
 
竜久は紫御寺本家の長男で、『精霊剣』継承者(予定)。
隆生は本家の跡取りとは関係はないが、紫御寺家の人間である故に竜久のそれとは違う能力を持っている。
 
二人は中学生になっても仲良く、いつも一緒だった。
 
竜久の視界に隆生の後ろ姿が入った。
 
『おいっ!隆生!待て…待てよ』
 
隆生は振り向かずに右手を挙げて合図をしたが、止まらずスタスタと歩いている。
 
竜久は息づかい荒くして更に話しかけた。
 
『おま…お前さぁ…たまにゃウチの道場に来いやー!』
 
隆生はまだ振り向かずに歩いている。
 
『親父が呆れてんぞー!』
 
親父というのは竜久の父親にして現在の『精霊剣』の継承者だ。
町で剣道場を開いており、隆生も中学2年まで通っていたが、3年になると急に来なくなった。
 

 
『やだよ。面倒くさい。別に俺は後継者って訳じゃないんだし』
 
隆生はヤレヤレという顔をしながら、そう答えた。
 
『うわ…イヤミー』
『嫌味で言ってんじゃねーよ。
俺は紫御寺の次男の息子で良かったー……って思ってるさ』
 
隆生はようやく振り返り、竜久の言葉をさえぎった。
そして再び歩きだし、そのまま話を続けた。
 
『俺の性格じゃ、後継者なんて責任持てんもん。無理無理!
やっぱりお前が跡を継げるように性格付けされてるんだよ』
 
竜久は黙って聞いていた。
 
紫御寺家の『精霊剣』を継ぐという事がどういう意味を持つのか…。
『精霊剣』の引き継ぎは、江戸時代の初期から続いているが、元々は紫御寺家の護り神のような役割だったが、明治時代、5代前の御先祖の時にある出来事が起こり、それ以来『乗本家』との因縁が続いている。
 
竜久は父親から聞かされた事を思い出しながら隆生の後ろを歩いていた。
 
すると隆生が急に立ち止まり、不意をつかれた竜久は隆生にぶつかった。
 
『あたっ…!急に止まるなよ隆生………?!!』
 
『うわぁ!』
 
竜久は鼻を押さえ、
隆生は叫んだ。
 
『何だよ隆生〜!どうした……?!』
 
竜久と隆生を上から見つめる白い蛇のような生き物3匹が、お互い絡み合うように回りながら存在していた。
 
『ああ…あいつらかぁ…
家から出る時も宙にプカプカ浮いてたなぁ。俺を見ながらさ』
 
『竜久、お前アレ知ってんのか?!』
 
『お前にだって解るよ。よく見てみろよ』
 
隆生は竜久に言われた通り、3匹の蛇を見つめた。
良く見ると蛇ではなく、頭部左右ににヒレの様なものがある。 
 
空中に浮いている事自体、この世のモノではないのだが。
 
霊能力がある隆生はすぐにそれが何か、『主は誰が』分かった。
 
『ふーん。相手は随分お前に熱心なんだな。それともヒマなのか?』
 
そう言われた竜久は自分の右手を見つめながら
 
『“奴等”は待ってるんだよ。俺が“精霊剣”を継ぐのを』
 
隆生は呆れた。
 
“奴等”と言われている『乗本家』と紫御寺家の因縁の事は、紫御寺家の一員である隆生も聞いている。
そして3匹の蛇の主が自分達と同年代である事も。
隆生はふと竜久の方を見た。
竜久の右拳を中心に、全身にオーラが見えた。
 
『竜久?』
 
『ん?ああ…』
 
竜久の握っていた右拳がゆっくり開いた。
 
『竜久、お前まだ“精霊剣”は受け継いでないよな?』 
 
『継いでないよ』
 
隆生は竜久が“精霊剣”を受け継ぐ日は近いと感じた。
それは、『乗本一族』と戦う日が近い事を意味していた。
 
隆生は嫌な予感がした。
 
『お前等ばっかみてぇ!生き死にの問題だってのによ!お前死ぬわ、竜久!』
 
隆生は隆生の精一杯の言葉でやめさせようとしたが、すぐに後悔した。
言ってもどうしようもない事なのだから。
 
竜久はニヤリと笑い
 
『俺に何かあったら、お前が後継者だからな』
 
と言った。
 
隆生は頭に血が上り
 
『やなこった!!!』
 
と竜久に背を向けた。
空を見ると、いつの間にか「使い魔」はいなくなっていた。
隆生は軽く受け流し歩き出した。
 
『おい!隆生!道場に来いって』
 
『うるせぇっての!俺は後継者じゃないんだ!』
 
隆生は竜久が自分を竜久の後継者として見ているのが辛くなった。
 
『違うって!普通に剣道で汗流そうぜー!』
 
『剣道なんて考えただけで汗かくし、くせぇし…』
 
隆生がブツクサ言っている跡を竜久はニヤニヤしながらついていった。
             了

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